僕の"当たらない"友達との話

岡田公明/ゆめみけい

僕の"当たらない"友達との話

 僕には、友達がいる。

 彼は須藤すどう 駿しゅんという名前で、名前だけを聞くとなんだかスポーツ神経が抜群なイメージがあるが、実の所はそうではない。


 どちらかといえば、細い方の人より少し運動の出来る高校生だったりする。

 頭は、どちらかというと...まぁ良くない


 そんな彼は、ふとこんなことを言いだした。


「お、俺の感覚が貫いた!明日は雨だな」


―結論を言おう


 明日は、普通に晴れた。

 それも、天気予報の事実を覆して...


 確かに、朝の予報を見た時、1週間は雨だと言っていたのに、どこかの気圧の影響で中国大陸の方へ行ってしまったらしい。


 そんな感じで、色々な物を持った、少し残念な友達だった。


 それは、昔から変わっていない。


 否、ある一時を境に、それも中二の夏ごろに突然そんなことを言いだしたから、てっきりこの年の流行り病かと思ったら、未だにそれは続いている。


 その彼の感覚に貫くものは一体何か分からないが、一度くらい当ててやってもいいのではないかと思うほど、残念だった。


 そんな残念な彼は、それ以外を除けば割と良い男だから、羨ましい。


 性格はこんな感じで、能天気、良く言えば明るいし、悪く言えば、少しバカだ、だがそんなところは果たして欠点になるだろうか


 それが、可愛いと思われることだって十分にあるわけで

 結果として、バレンタインなどでは、チョコを貰う始末で


 いっそのこと、その感覚とやらが今年もチョコ貰うなと貫いてくれれば、僕が苦しむこともないのではないだろうかと思ってしまう。


 その根拠のない彼の中にある謎の貫ぬきについて問うた時、彼はそれを"感覚"だといった、なんか貫く感触があると、ビリビリってくるそんな感じの、そんなまぁそうでしょうねと言う解しか得られなかったが、それがずっと外れているのは何とも不思議なことだった。


 逆に言えば、それは凄いことではないか?

 その感覚という物を逆に利用すれば、なんていう風に言って見たこともあったが


 それは、どうやら彼の中で突然現れるらしい

 例えるなら、恋のキューピットのように...らしい


 恋のキューピットみたいなメルヘンチックな物ではないだろう、少なくとも

 だって、考えてもみたら、脳に何かが撃ち込まれてビリビリとしびれる感覚があるわけだ。


 それを、そんな風に例えることができるか?


 なんて、思いはしたものの、恐らく理解はされないだろうという、自制の心で何とか自分を抑えたりしていた。



「いや~それにしても今日は暑いな~」


 頭に手を当てて、能天気に駿は言う。

 まぁ、本来であれば、今頃寒いくらいに雨が降っていたであろうが、それを謎の力で吹き飛ばした男は違うな


 しかし


「ああ...そうだなぁ」


 出来る限り本人にそれは言わない、まぁ若干気にしているかもしれないしという、人間的な優しさが僕の中にはあった。


「あ、貫いた!ビリビリってビリビリって来た!」


「お、そうか」


「なんだよ、反応薄いな~」


「まぁ、まだ朝だし、こんなもんでしょ...」


 否、違う単純に反応が薄いだけだ。

 というのも、これが数日に一回ならこんな返しにはならないだろうが、下手をすれば今日だけで、10回以上聞くことになってもおかしくない。


 そして、それが全て外れるのがこれの醍醐味で、初めこそは面白かったが、慣れた今では反応が、こんなもんになっている。


 あぁ、あの頃の僕が帰ってきたのであれば...なんて思うことはまずないが、前の方がもう少しは楽しめていた気もして、それは時が生んだ、悲しい変化の一つなのかもしれない。


「まぁ、とりあえず聞いてくれよ」


「おう...」


「今日の小テスト、先生が忘れてて、無くなるぞ」


「あ~うん...」


 何とも言いずらい...

 結構難しい気がするが、言葉で表現しずらい


 想像してたより、規模が小さいのと、まぁ無くなったかもしれないテストに確定演出が入ってしまったことが、大きい。


 どちらにせよ、勉強してきた僕にとっては...



「―はーい、じゃあ抜き打ちテストするぞー」


 公表されていた、国語のテストとは別で、数学の抜き打ちテストが授業に盛り込まれてきた、まさか斜め上からの確定演出だったとは...


 ここで、凄いのは、これを外したことではない。

 的確に視界の外から現れたということだ、いやまさか予想が予想の範疇を越えるとは...なんて、思いながら抜き打ちのテストを受ける。



「―いや~また外しちまったなぁ」


 困った困ったといった様子で、頭を掻いている駿を見て

 まぁ、視界の外から俺に対して不意打ちを当てるという意味では、当たっているなんていう謎理論を展開しそうになったが、それを上手く飲み込む


「それは、残念だったな」


 今回も、あまり期待していなかったから、ただまぁなんというか今度は捻らないでくれると嬉しい、今回の単元をたまたま勉強していたから良かったものの、これがもし異なっていて、突然の抜き打ちが発生したとすれば...それは然るべき事態には違いない訳で...


 というか、これはどういう原理で成り立っているのだろう


『次こそは、絶対に...』と意気込む横で、僕の中に1つの疑問が生まれる。


 彼の感覚原理が、不思議なのだ。

 あれを彼は、貫いたと言っているが、それが本来起きる出来事に何か改変を加えて、彼の中で貫いているのか


 そして、もう一つの可能性は謎理論によって、世界が彼に干渉している

 いや、それは厨二病過ぎるか?しかし、それにしては良くできている気がした。


 もっと、壮大なこともあった、明日隕石がとか、雷で停電がとか

 総理大臣暗殺みたいなことを言った日もあった。


 しかし、それらは全て実現していない。

 否、しかけたところで、何かが歪んだ。


 隕石は、小惑星との衝突で軌道が逸れた。

 その間、彼は必死に親を説得していたらしい。


 雷で停電は、隣町で起きた

 まぁ、実際に起きたわけだが、これは身の回りで起きていない。


 総理大臣は、未遂で済んだ。

 偶然の産物によって、たまたま一命を取り留めたわけだが、それも危うかった。


 そう考えた時に、何か世界が彼に作用していてもおかしくないと思うようになる

 であれば、一体...



「―なぁ...なぁ、聞いてるか?」


 駿の顔が、近くで揺れた。

 否、僕が揺らされているだけだ


「ん?どうした」


 何も無かったように、自然にそうやって返す

 こんなラリーをずっと続けてきた。


「いや、また貫いたんだけど...さぁ」


「ん?なんだ?」


 やけに、勿体ぶるがどうかしたのか?

 いや、ただ彼の予想は大体外れるし...


「それがよ、トラックに轢かれてたんだよ」


「うん...」


「で、その相手は...その....」


「...それで?」


 あくまで、こいつの予想は、基本外れると僕は知っている...


「それでよ、俺が泣いてるんだ...ごめん、ごめんって...」


「うん...」


「だからよ―」













―本日○○市××にて

 高校生が大型のトラックに轢かれるという事故が発生しました












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