第12話

それから、地獄だと思っていた生活はさらに悪化した。


(まだ下があったなんて・・・)


あの翌日、学校に行けばアリアたちが待ち構えていた。



「シャロンさん、私に何か言うべきことがあるのではなくて?」


それがすぐに支援のことだと分かった。


「一体何を企んでいるの?」


「まあ、企んでいるなんて・・・私はただあなたが不憫で支援を申し出しましたのに・・・」


悲しそうに口に手を当てたアリアに、周りの取り巻きどもが騒ぎ出す。


「なんて酷いことを言うのかしら。」

 

「支援を受けておいてなんて態度なの?」


「お礼の一つも言えないなんて・・・」



その言葉にイラつきながらぐっと拳を握る。でも支援のおかげで助かったことは確かだ。


「これは失礼いたしました。支援の件、両親も喜んでおります。気にかけていただいてありがとうございます。」

  

私は苦々しい気持ちを抱えながらも淡々とお礼を言った。


「ふふ、お礼も言えたのね。いいのよ、うちはあなたの家と違って裕福だから。」


「・・・そうですね。」


「でも、あなたも貴族。ただ施されるなんて納得がいかないでしょう?」


「は・・・?」


「だから、学校で私のお手伝いをしてくださらない?その対価として支援をいたしますわ。」


いい案でしょう?と微笑んだアリアに、これが狙いかと唇を噛み締める。周りの令嬢たちが、「アリア様はなんてお優しいんでしょう!」なんてあの女を持ち上げている様子を冷めた気持ちで見つめた。


「支援はあなたが勝手になさったこと。それに対して対価を求めるのは如何なものでしょう?」


私はそう言ってアリアたちの横をすり抜けた。後ろから「まぁ!なんて恥知らずな・・・」なんて声が聞こえてきたけど、知ったことじゃ無い。


家に帰るまではそう思っていた。




歩いて家に帰ると、家の前に馬車が止まっていた。刻まれた家紋に背筋が寒くなる。


(サンチェス家の馬車だわ・・・)


私は恐る恐る中へと入る。


「ただ今戻りました。」


「シャロン!お前なんてことを・・・いいから早くきなさい!」


怒気を含んだ父に腕を引っ張られて居間へと向かう。


「お父様、腕が痛いっ!」


そう言ってもお父様は腕を緩める気はないらしい。そして、居間へと入ればそこにはアリアとサンチェス伯爵と思われる人がいた。


「君がシャロンか。アリアから話は聞いている。」


「っ!お初にお目にかかります、サンチェス伯爵。シャロン・オルドリッジです。」


私は驚きつつも挨拶を返す。サンチェス伯爵は目を細めて私を見た。


「困っていると聞いたから支援をしたのだが、君は不要だと突っぱねたそうだね?」


「いいえ、私が申したのは・・・」

「そうなのよ!お父様。私がせっかく支援を申し出たのに迷惑そうで・・・」


私の言葉を遮ったアリアがにやっと笑う。そんなアリアを、伯爵は愛おしそうに頭を撫でた。


「それで、ご本人たちの意向を聞きにきたのだ。支援は余計なお世話だったかね?」


「い、いえ。とんでもない!シャロンも何かの間違いでそんなことを言ったのでしょう。支援には大変助かっております。」


「そうですわ!とてもありがたく思っておりましたの。余計なお世話なんてことは全くありませんわ。」


両親が必死に伯爵に縋りつくのを冷めた目で見つめた。



「そうか。それで君はどうかね?」


伯爵が私を見る。


「私は・・・」


「シャロン!当然、お前も望んでいるよな?」


「シャロン、あたなも望んでいると言ってちょうだい。」


「・・・はい、私も望んでいます。」


本当はそんなこと望んでなんかいない。でも両親はもう支援を打ち切られたら生活できないだろう。そしてその怒りの矛先は・・・


そう考えた私は歯噛みをしながら首を垂れた。



「そうか。わかった。それなら支援を継続しよう。」


そう言って伯爵はチラッと私を見た。


「行き違いがあったようだが、くれぐれもアリアの気持ちを無駄にするようなことはしないでくれ。」


「・・・はい。」


「ありがとうございます!サンチェス伯爵。なんとお礼を言っていいやら・・・」


「シャロンにもちゃんと言って聞かせますわ。本当にありがとうございます!」


そう言って両親に半ば無理やり頭を下げられた私はチラッとアリアを見た。彼女はおもしろい興行でも見るかのように手で顔を隠しながら笑っていた。



そうして、私たちの様子に満足した2人は去っていった。

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ゴーストハウス @aitoria

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