トランス・ゼロ外伝2 とある特務隊員の日記

久木戸 ロラン

とある特務隊員の日記

 新暦72年12月7日

 突然、技術研究局直属特別任務部隊、通称「特務隊」に配置換えになった。理由はよくわからなかったし、教えて貰えなかった。教えられたとしても俺に拒否権はないんだろうけど。局長命令らしいし。俺の何が局長の目に留まったのか謎だ。

 特務隊のイドレ・ニーズルヤード隊長には、いろんな噂がある。一個旅団をたった一人で殲滅せんめつしたとか、わざとフレンドリーファイアを起こして銃殺刑に処されかけたとか、週に二人は惨殺しないと精神に異常をきたすとか、まあいろいろだ。そんなわけで会うのがちょっと怖かったのだが、実際顔を合わせてみたら、気さくで話しやすい人だった。特務隊って何やってるかわからなくて不安だったけど、ちょっと安心した。



 新暦73年1月5日

 今日は新年の御前試合があった。部隊対抗だから毎年かなり盛り上がる。

 個々が勝ち上がるトーナメント方式の個人戦と、各部隊五人ずつ精鋭を出して一斉に戦い、最後まで立っていた者が所属する部隊が優勝という団体戦。流れ弾が危険なので、両方とも火器の使用は禁止。うっかり皇帝陛下に当たったら大変だもんな。

 イドレ隊長は今までどっちにも出たことなくて、今年出たのは局長命令だからって凄くいやそうにしてた。突然命令が下ったのは、局長が近衛隊長に煽り散らかされたんだそうな。偉い人どうしで何やってんだ。

 イドレ隊長が出たのは団体戦だったんだけど、そりゃもう強かった。強いとは聞いてたけど、他の部隊の精鋭相手に無双するとは思わなかった。最後には、特務隊の他の四人は棒立ちで、イドレ隊長対その他全員になってた。それでも勝つんだから本当に凄い。今度是非訓練で稽古をつけて貰いたい。



 新暦73年4月28日

 どうやら戦の準備が始まっているらしい。今度の相手は光国こうこくアルドラだそうだ。炎国えんこくミルザムを落としてから十五年、雷国らいこくノールレイとの小競り合いから十年。攻め込む力を蓄えたってことかな。

 向こうには魔法障壁があるから幻晶げんしょうを使う武器は動かなくなるって話だったけど、どうにかする目処が立ったんだろうか。どっちにしろ、まず間違いなく局長が絡んでる。ってことは、特務隊も前線に出されるだろう。

 イドレ隊長みたいに、火器に頼らなくても強い人がたくさんいれば、魔法障壁なんて気にしなくて済むのだが。これを言うと怒られるけど、帝国軍は大体重火器に頼ってるから、それを封じられると途端に戦えなくなる。ミルザムを落として十五年、火器に頼らない軍隊を作るんじゃなくて、魔法障壁をどうにかする方向できてしまったから、もう軌道修正はできないのかな。軍からの発注がなくなったら、銃とか作ってる会社も困るだろうし。

 特務隊だけでも火器に頼らない戦術を身につけておくべきじゃないのか。イドレ隊長は他人に教えるのは無理って言ってたけど、謙遜しているだけだと思う。明日にでも頼んでみよう。



 新暦73年7月11日

 暑くなってきた。

 アルドラ攻略の第一陣が出発したと聞いた。壮行式みたいなのはないらしい。海を渡ってからかな。光国アルドラを落としても根本的な解決にならないなんて話もあるし、今ひとつ士気が上がってない気がする。大丈夫なのか。

 今日の訓練では、珍しくイドレ隊長が相手をしてくれた。ただし、三十人対隊長一人で。なのに誰も隊長から一本取れないなんて、さすがと言うか、どうかしてると言うか。隊長が飛び抜けて強いんじゃなくて、俺たちの方が弱いんじゃないかって心配になってくる。両方だったりして。……そんなことはないと思いたい。

 特務隊もいずれミルザムへ向かい、参戦する。イドレ隊長がいれば負けはないと思うが、不安は不安だ。俺たちが到着する前に終わらないかな。まだ始まってもいないけど。



 新暦73年8月21日

 ミルザムの西側要塞に着いた。アルドラとの国境は目の前だ。

 まだ戦端は開かれていない。魔法障壁は健在なので、攻撃を始めることができないから、当然なのだが。

 夕食の後、珍しく局長とイドレ隊長が言い争っていた。内容は聞こえなかったけど、どうしたんだろう。隊長はいつもと変わらないように見えたし、隊長に限って戦を前にして気が立ってるなんてことはないだろうから、局長の機嫌が悪かったか、いつもの気紛れか。局長の気分屋にも困ったものだ。

 そういえば明日、局長に呼ばれてるんだった。理由は謎。特務隊だけじゃなく、他の部隊からも二十人くらい呼ばれているらしい。何人かと話したけど、みんなただ呼ばれただけで、誰も理由を聞いてなかった。いやな予感がするのは俺だけだろうか。

 イドレ隊長がやたらに優しかったのも気になる。そんなに緊張してるように見えたのかと思うと複雑だけど、気遣ってくれるのは嬉しい。隊長の足を引っ張らないようにしよう。隊長につて行けば大丈夫だ。



 了

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