推して推されて
ホイスト
第1話
「はぁ〜、二つ救の騎士様! カッコイイぃ」
目の前の、金髪の少女がそう言った。
数週間前に遠足で訪れた「二つ救の騎士」生誕の地で興味を持った彼女は、それを題材にしたゲームを買ってそのままどハマりしてしまったようで。
毎日毎日私の前に来て推しの話をする様になってしまった。…………遠足まで会話した事無かったんだけどな。まあ、嫌じゃ無いけど。
「ねえ、貴女もプレイしてみてよ! 絶対ハマるから!」
彼女が笑顔でパッケージを渡してくる。
勿論、例のゲームだ。
「……いや、ハマってるんでしょ? 私に貸していいの?」
「それ布教用」
彼女が鞄から2つ目のパッケージを取り出す。……ゲームなのによく布教用を買ったな。
「はぁ、仕方ないな」
渡されたパッケージを鞄に入れる。
「おぉ! やっと諦めてプレイしてくれるんだね!」
推しを語り会いたいなー、と嬉しそうに言う彼女を見て、左目を閉じてから右目を閉じる。
そうすると、頭の中でパシャリと音が鳴る。
そのままほんの0.5秒程目を閉じていると、瞼の裏に今見ていた光景が浮き上がる。
撮影魔法だ。
彼女が絡んで来るようになってから、私は自分の趣味に気付いてしまった……可愛い少女が好きなようだ。
彼女の金髪はサラサラと流れており、光に当たると金の様に輝く。
目はルビーの様に紅く、真っ白な肌に合っていた。
そんな彼女と遠足から毎日合うようになり、段々と家でも彼女を見たくなってしまった。
その欲望に従ってしまった結果、左目からの瞬きをトリガーにした撮影魔法を組んだのだ。
毎日数枚撮るから沢山溜まってしまった。もしアルバムを見られたら私の推しが誰か分かるだろう。まあ、魔法で撮った写真のアルバムを見られる事はまず無いけど……。
綺麗に撮れた事を確認して目を開ける。
すると、彼女は訝しげに私を見ていた。
「──貴女さ、最近私の写真撮ってる?」
「ヴぇっ!? いや、えっと……」
勘づかれると思っておらず動揺する。
瞬きにしては確かに不自然だとは思うけど、同じ様な動作を通知の確認にしてる子も居るし……。
「やっぱり……」
彼女は椅子の背もたれに隠れる様に頭を下げていく。
まずい、嫌われたかも……!
「ご、ごめ──」
パシャ
机の下から音が鳴り、思わず身体がビクッと跳ねる。
すると彼女が頭を上げて腕をあげた。
両手の親指と人差し指で四角を作っており、その中には誰かのスカートの中が写っていた。…………いや、それっ。
「な、なに撮ってんの!?」
「盗撮してた人には言われる筋合いありませーん」
キーンコーンとチャイムが鳴る。
それを聞いた彼女はこれ幸いと鞄を持って教室を出ていった。
…………どうしよう。
──────────────────
自分の教室に戻りながら、片目を閉じて先程撮った写真を見る。なかなか可愛い下着履いてるな…………。
また後で堪能しようと目を開ける。
視界には廊下、掲示板、消化器等など……そしてらそこから出る色とりどりの光──魔力。
生まれつき、魔力が見える体質だ。
眩しくて仕方ないが、便利な事が多いので重宝している。
最近どハマりしている作品の時代は、魔力や魔法の存在が発覚していなかった。
遠足でそれを知った後、そんな不便な世の中でどう生きていたのか気になって調べて見ると、何とゲーム化しているではないか。
お手頃価格だったので買ってプレイしてみると、展開が熱いのなんの。
つい布教用を買い黒髪の彼女に渡す程になってしまった。
遠足で黒髪の彼女に近付いたのは、彼女の魔力の色が綺麗だったからだ。
透き通った紫色。
あまりに綺麗なのでふら〜っと近付いてそのまま連れ歩いてしまった。
それから彼女と過ごしていると、ある日から彼女が瞬きした時に目が光るようになった。
面白すぎて吹き出しそうになったけど何とか堪えた。
魔法を使う時は魔力が集まるので明るくなるのだ。
暫く過ごしていると、どうやら私といる時だけ使っていると分かった。
目を使う魔法。コミュニケーションをとる魔法の通知が来た時とかの確認にトリガーとして使う事が多いけど、なんだか違う気がしてよーく観察していた。
すると、閉じて少ししたら瞼の裏辺りが四角く光っているのが見えたので、あ、写真だ。と判断した。
写真を撮りたいなら言ってくれればいいのに。
そう、少し拗ねてしまい仕返しにスカートの中身を撮ったけど、なかなか背徳感が合っていいな。
そんな事を考えていると教室についたので、ガラッと扉を開けて中に入った。
「おめェよく堂々とはいってこれんなぁ、あぁ?」
先生が物凄い形相で私を見た。
…………あれ、もしかしてあれ本鈴だった?
推して推されて ホイスト @hoisuto
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