代償

lager

第六感

 自慢じゃないが、私は昔から勘がいい。


 夜中寝てるときに地震が来ると、揺れが起こる前に必ず目が覚める。

 ペットの死に目には立ち会えなかったことがない。

 この前も胸騒ぎがして朝早く家を出たら、普段使ってる電車で人身事故が起きた。


 今日も、嫌な予感がしたのだ。


 久しぶりにの休日で、私は旦那と一緒にショッピングに出かけていた。

 夕方に帰宅し、マンションのエントランスを通った時から予兆はあった。

 そわそわと落ち着かない気分はエレベーターの中でいや増しし、とうとう玄関のドアを開けた瞬間、私の首筋が粟立った。

 


 これは……。

 がいる。



 緊張する私を不審がった旦那がそれでも電灯を点けると、案の定、靴箱の下にソイツはいた。

 黒くて、平べったくて、テカテカしてて……。


 私はあらん限りの力で絶叫し、旦那に飛びつき、旦那が持ってきた殺虫スプレーを引ったくって噴霧した。

 家の中が刺激臭と白煙に塗れた頃、ビショビショになってこと切れたソイツを旦那に始末してもらった。


 目がショボショボするし、鼻もとっくに曲がってしまった。旦那はそれに加え、耳元で私が叫んだせいで耳の調子も悪く、首も痛めたようだ。

 折角デパ地下で買ってきたオードブルは味がしなかったが、それでも私は敵を滅ぼしたことに満足だった。我が家の平和は保たれたのだ。


「なんかね。嫌な予感がしたのよ。どう、私の第六感、役に立ったでしょ?」

「そうだね。俺の五感がダメになったけどね」


 てへぺろ。

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