第45話 もうひとつの危機が迫る


「フリージア、ボクだってちゃんと反省しようと思えば反省出来るんだよ!いつもは反省するって言ってもする気はないけど、今回は本当に反省したんだ!だからいつものコーヒーを淹れてよ!」


「そ、そんなこと言ったって、ユーキ様はすぐわたしを置いて遊びに行っちゃうじゃないですか?!次元のチャックを使ってどこかに行っちゃったら追いかけることも出来ないんですよ!わたしとヴィーさんがユーキ様のやらかした後始末にどれだけ苦労して「ほら、そんなこと言わないで」……め、眼鏡を外すのは卑怯ですぅぅぅっ♡♡♡!!!」


 目が覚めて最初に目にしたのは、ある意味(?)修羅場だった。最初はなにごとかと驚いたけれど、ベクターから説明をされて何があったとしてもやはりユーキさんはユーキさんなのだとしっくりしたくらいである。出会ってからわずかの時間しかなかったはずなのに、私もすっかりユーキさんに毒されている気がした。まぁ、フリージアさんが現れて言及しなければ誤魔化そうとしてたらしい……と錬金術師さんが言っていたのでどこまで反省しているかは謎なのだが。


 どうやら魔族に関してはユーキさんが関わっているとの事で、話の内容はめちゃくちゃなものだったがそれについてもなぜか妙に納得してしまったから不思議である。そして突如現れた白銀の髪の少女……フリージアさんがユーキさんを正座させて叱っていたのだが。


「ねぇ、フリージア────」


 最初は平謝りしていたユーキさんだったが、おもむろに立ち上がり眼鏡を外したかと思ったら……フリージアさんの顎を指でくいっと摘んで持ち上げたのだ。眼鏡を外した姿の変貌ぶりにも驚いたが、フリージアさんの目がすっかりハートマークになっているのにも驚いていた。


「ボク……フリージアの淹れてくれたコーヒーじゃないとダメなんだ。少し濃い目のブラックが飲みたいなぁ……」


「久しぶりのユーキ様のご尊顔────大好物です!ありがとうございます!!」



 こうして反省していたはずのユーキさんは勝者となりご満悦でコーヒーを飲んでいたのだった。なぜフリージアさんは涙を流して天を仰いでいるのだろう?




「それにしても……私、死んでなかったのね。まさか死んだと思い込んで夢の世界を彷徨っていたなんて……」


 目が覚めた瞬間は何がなんだかわからなかった。


 ただ死んだと思った原因の傷も実は負ってなくて、アンバーの魔力に守られて実際には怪我をしていなかったけれどその場の状況と雰囲気で怪我をしたと無意識に認識したとか……なんだかもう、よくわからない。


 そして、さらに頭を悩ませる事実が告げられたのだ。





「私が、賢者ではなく……本当は錬金術師?」




 なんとユーキさんによれば、私は自分の命と等価交換をして新たな世界を創造していたというのだ。


 つまり……これまでも同じ世界をループして繰り返していたのではなく、自分が死んだと認識した瞬間にを構築して再現していたのだと。



「同じ世界を構築?そ、それじゃあ……この世界の歴史は?大昔にも賢者がいたとか聖女の事とか……それに、みんなも……」


 思わず声が震えると、人間の姿もなっているアンバーが私の手をきゅっと握ってきた。見慣れたドラゴン姿ではないせいか妙にそわそわしてしまう。まだまだ赤ちゃんだと思っていたのに、まさか人間の姿になれるなんて思わなかったのだ。しかも美少年だし……いやいや、外見がどうであれアンバーは可愛いアンバーなのだから決してやましい気持ちなんかない。



「誤解しないで欲しいんだけど、この世界はこの世界として元々存在しているよ。別に君の弟やそこで腰を抜かして動けない王子に……ドラゴンくん達の存在が虚像なわけじゃない(それについてはそこまで興味ないけど)。だからループ開始時点までの歴史はちゃんと本物なんだ。(と、思う)というか、それまでの世界を基礎にして構築しているからループの世界……つまりどれだけパラレルワールドを作ったとしても基本の歴史は同じさ。(たぶんだけど)……まぁ、の過去だけはボクがちょっとイジっちゃったけど、それでも元々魔族はいたしそこの聖女も悪巧みはしてたってこと。今回はたまたまその願いが叶っちゃったってだけさ。(きっとね)パラレルワールドって奥が深いんだよ……きっとエターナの力の相乗効果もあるんだろうけどね(これ以上はめんどくさいかなぁ)」


 コーヒーを口に含み、誰よりもリラックスしている様子のユーキさんがそう言った。だが再び眼鏡を装着したユーキさんの含み笑いに不穏な空気も感じている。なんだろうか……顔に「飽きた」と書いてある気がした。



「師匠……なんでもう飽きて来てるんですか。パラレルワールドがどうであれ、今の世界の問題って師匠のせいなんでしょう?」


 みんなが思っていることを錬金術師さんがため息混じりに口にすると、ユーキさんは肩を竦める。


「だって、フリージアにも怒られちゃったしやる気なくなっちゃったよ。ヒロインとやらの設定もめちゃくちゃだろうし、もう魔族と聖女はそこのでっかいドラゴンに丸飲みしてもらえば一件落着だろう?だってもうこの世界の主人公は────」


「エターナ!」


 めんどくさそうに語るユーキさんの言葉が遮られた。


 みんながそちらに目を向けると、そこにはドラゴンママの後ろ足に踏みつけられて身動きが取れないでいる聖女と……なぜか頬を紅潮させて興奮気味なヴィンセント殿下がいたのだ。



「エターナ!詳しくはよくわからないが、お前は死なずに生きていた。つまり、この世界は賢者に見捨てられなかった……賢者のループの世界の中でも特別な世界なんだ!


 聖女が魔族と繋がっているとわかった今、賢者であるエターナが最優先だと父上も認めてくれるはずだ!


 ……だからもう、婚約破棄する必要なんてない。エターナが俺の幸せを願ってくれているのはわかっているが、こんな聖女とではなくて俺はエターナと幸せになりたいんだ────だからエターナ。俺と……結婚してくれ!」


 そう言って勢い良く私の手を握りしめたヴィンセント殿下。それを見てユーキさんは再びため息をついた。



「……ヒロインを“ざまぁ”して悪役令嬢が王子と結ばれる────か。まぁ、物語としてはありきたりだけど妥当だろうね。エターナは悪役令嬢から真のヒロインになったわけだ。でも────」


 その時だ。聖女が……いや、ドラゴンママの足の下で魔族が狂ったように笑い出した。



『……まさか、伝説の魔王がこんなだったとはな……。くっくくく……魔族は魔王のおもちゃだったというわけか……「おもちゃって言うほど遊んだ記憶はないけどね」黙れ、魔王め!どうやら我々を消すのは簡単だと思っているようだが魔族だって馬鹿じゃない。賢者の弱点だってわかっているんだ……!』


「私の弱点……?それって────!」



『賢者の家族は、我々魔族が捕らえている!このまま魔族を消すというのなら、賢者の父親と母親……それに義弟とやらも道連れだぁぁぁ!!』




 血を滲ませた唾を撒き散らしながら魔族が叫んだのは、私の家族の危機だったのだ。

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婚約を拒否された賢者は、憧れの悪役令嬢になるためにどうしても婚約してから破棄されたい As-me.com @As-me

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