第359話 会談の終了

マチルダ陛下の専属メイドであるメリアが退室後、程なくして父上達が部屋に戻ってきた。


そして、アーウィン陛下がデイビッド達に微笑みかける。


「どうだ、お前達。リッドやファラと仲良くなれたか?」


「はい、父上。私とリッドは、良きに友人になれると確信しました」


「私も兄上に同意します」


「……私もリッちゃんとは良いお友達になった」


三人はそれぞれに答えると、ニコリと頷いた。


その様子に、アーウィン陛下は嬉しそうに「はは」と口元を緩める。


「そうかそうか。それは良いことだ。なぁ、マチルダ」


「えぇ、子供達の繋がりは、きっとそのまま帝国の未来を明るく照らしてくれるでしょう。ライナー、貴方もそう思わない?」


「はい。仰せの通り、帝国の未来を創る子供達が仲睦まじいことは、大変嬉しく存じます」


マチルダ陛下の含みがありそうな問い掛けに、父上は畏まって答えた。


すると、アーウィン陛下がやれやれと首を横に振る。


「ライナー、そう硬くなるな。お前が息子を政争に巻き込みたくないのはわかる。しかし、これから十年もしない内に、リッドは爵位継承と家督を継ぐための準備として、帝都にある『マグノリア帝国騎士学園』に入学せねばならんのだぞ。今からそんなに過保護でどうするのだ」


「……その時のリッドは子供ではないだろう。しかし、今はまだ子供だ。無駄な政争に巻き込みたくないのは、親なら当然だと思うがな……アーウィン陛下」


「まぁ、そう眉間に皺を寄せるな、ライナー。リッド、君が帝都に来るのを楽しみにしているぞ」


「ありがとうございます。アーウィン陛下」


そう言って一礼したけれど、『マグノリア帝国騎士学園』という単語を聞いて、ドキッとした。


その学園は前世の記憶にある『ときレラ!』の舞台となる場所だからだ。


だけど、学園を卒業することは帝国貴族の子息達にとって重要……いや、貴族として生きていくなら必須と言える。


マグノリア帝国において、家督と爵位は現当主が任意の人物を指名することが可能となっているけれど、条件が当然あるからだ。


第一が、現当主の血縁者もしくは養子など家族関係を結んでいること。


第二が、『マグノリア帝国騎士学園』を卒業していること。


第三が、皇帝陛下に家督と爵位の継承が認められ、許可が下りること。


ちなみに学園の入学条件は、十六歳~二十歳までの養子を含めた貴族の子供であることだ。


また、国同士の繋がりから、他国の貴族を留学生として受け入れる場合もあるという。


入学後は、帝国の歴史から領地運営。


戦争における戦略や政治の場においての弁論に加え、前世で言うところの『騎士道』や『武士道』など、貴族としての心構えや必要な知識を学ぶ。


その後、学園を卒業した者には『準騎士』という、マグノリア帝国で一番低い爵位が授けられる。


『準騎士』という爵位は、あくまで学園を卒業したことを示すものだ。


その後の活躍による帝国への貢献度、家督や爵位を継承することで爵位が上がったりする。


ただし、明らかに能力の低い者への家督と爵位の継承や、貴族の職権乱用と見なされた場合、皇帝陛下の許可が下りないこともあるそうだ。


例外もあるらしいけどね。


何はともあれ、マグノリア帝国において貴族の子息達は『マグノリア帝国騎士学園』を卒業しないと、家督や爵位を継承できないのだ。


そればかりか、家自体が没落する可能性すらあり、最悪のところ血筋が途絶えかねない。


従って、各貴族の子息達は『マグノリア帝国騎士学園』を卒業する為に、幼いころから日々勉強に励んでいる……一応、僕もその一人だ。


なお、学園の名前に『騎士』とあるが貴族令嬢も普通に入学できる。


むしろ、令嬢も学園を卒業しないと良縁はまず望めないそうだ。


高望みをするならば、好成績で卒業することが必要だから皆必死らしい。


妹であるメルも、いずれは学園に進み良縁を探すことになるだろう。


でも、それ相応の能力がないと認めるつもりはないけど。


その時、やり取りを見ていたマチルダ陛下が「ふふ」と笑みを溢した。


「しかし、何はともあれバルディア家が開く『懇親会』が楽しみです。『甘酒』の件については、その時にクリスを交えて話すということで良いですね?」


「はい、畏まりました。彼女にもそう申し伝えておきます」


ちなみに、クリスは今回の帝都にも同行をお願いしている。


今頃は、帝都の屋敷で懇親会の準備を執事のカルロや獣人族の子達としてくれているはずだ。


彼女には一緒に登城するか尋ねたんだけど、「懇親会の準備がありますから、恐れながら謹んでお断りいたします」と丁重に断られてしまった。


化粧水の一件以降、クリスは帝都に行くことこそ多くなったけれど、マチルダ陛下に呼び出されない限りは登城しようとはしない。


でも、頻繁に呼ばれてはいるみたいだけどね。


「うむ。では、別室で改めてライナーに伝えたが、懇親会は我らも参加する故、当日はよろしく頼むぞ」


「承知しました。陛下にお会いできること屋敷の者。皆喜ぶと存じます」


「では、ライナー。また後日にな」


父上の返事にアーウィン陛下が答えると、今度はマチルダ陛下が一歩前に出てファラを見据える。


「今日はあまり、貴方達のことを聞けませんでしたね。ファラ、特に貴女とはゆっくり話してみたいわ。今度、屋敷にお邪魔する時にまた話しましょう」


「はい。私も楽しみにしております」


ファラが頷くと、彼女は嬉しそうに目を細める。


デイビッド達とも別れの挨拶が終わると、彼らは部屋を後にした。


静寂が訪れたことに安堵して、「ふぅ……」と思わず息を吐く。


そして、ソファーに背中を預けるように腰かけた。


「さすがのお前も、皇族を相手にしては気疲れしたようだな」


「……父上は僕を何だと思っているんですか?」


「ふふ。でも、リッド様はとても丁寧に対応されていました。デイビット様達とは、これから良いご友人になれそうですね」


ファラがそう言うと、一連のやり取りを見守っていたディアナやアスナが同意するように頷いた。


「お二人共、皇族の皆様に対して適切に対応していたと存じます」


「姫様、リッド様。ご立派でした」


二人の褒め言葉に、照れ隠しのように頬を掻きながら「はは……それなら、良いけどね」と呟くのであった。



帝城から屋敷に戻ると、皆に大広間に集まるようにと声を掛ける。


程なくして、バルディア領から一緒に来た面々と、帝都の屋敷で働いている面々が集合した。


集まった皆を見回すと、何事だろう? という表情をしているの大半だ。


その中、『ゴホン』と咳払いをして注目を集める。


「えーっと、皆さん、朗報です。今度、此処で開催する『懇親会』に皇族の皆様も来られることが決定しました。失礼の無いよう、全力で準備に臨みましょう」


「え……」と皆は鳩が豆鉄砲を食ったようにきょとんとする。


しかし、それから間もなく「えぇえええええええ⁉」という驚愕の声が屋敷中に轟いた。


その様子に、父上は『やれやれ』と呆れ顔を浮かべるが僕、ファラ、アスナ、ディアナはその光景を見て楽し気に微笑んでいた。





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