第357話 リッドと皇太子達

デイビッド皇太子が瞳に怪しい光を宿してこちらを見つめる中、ニコリと頷いた。


「言葉通りですよ、デイビッド様。私は帝都と離れた辺境におります故、こうして直接お話できる機会は限られます。だからこそ、この機を大切にしたいと思ったまでのことです」


「なるほど。確かに、私も君とはこの機に親交を深めたい気持ちはあるからね。今はその言葉を素直に受け取ることにするよ」


「ありがとうございます。デイビッド様」


畏まってお礼を述べると、彼は首を小さく横に振る。


「気にすることは無いさ。それより、君は私と同い年と聞いている。折角だから、気軽にデイビッドと呼んでくれ。言葉遣いも崩してくれて構わないよ」


「承知しました……では、デイビッド。それに皆様も……僕の事はどうか気軽に『リッド』と呼んでください」


提案を素直に受け取った言動を行うと、彼は少し目を丸くする。


だけど、すぐに「ほう……」とニヤリと口元を緩めて楽し気だ。


どうやら掴みは成功したらしい。


帝都に住む皇族ともなれば、あまり気心を許せる相手は作りにくいというのは想像に難くない。


しかし、ここから離れた領地のバルディアに住む相手であれば、多少は話しやすいのではないだろうか? 


そう思って、言動を崩したというわけだ。


実際、皇帝陛下と父上も良く話すことが多いらしいからね。


程なくして、デイビッドはファラに視線を移した。


「君も私のことは『デイビッド』と呼んでくれていいからね」


「承知しました。しかし、私は他国から嫁いでいる身です故、『デイビッド様』と呼ばせて頂ければと存じます。皆様、私のことは『ファラ』と気軽にお呼び下さいませ」


ファラは畏まり、ペコリと一礼する。


「そうか。少し残念だが、君の立場を考えればしょうがないかもしれんな」


「兄上、ライナー辺境伯の息子であるリッド殿はまだわかります。しかし、レナルーテの王女でもある立場のファラ殿に、そのお願いは少し酷というものでしょう」


デイビッドの言葉に反応したのは、キール皇子だ。


彼はそう言うと、こちらに視線を向ける。


「私のことも、兄上同様に『キール』と呼んでくれて構いません」


「畏まりました」


僕とファラが会釈すると、アディール皇女が「私は……」と呟いた。


その声に反応してこの場にいる皆が注目すると、彼女はファラに虚ろな瞳を向ける。


「……私は、母上と同じように貴女を『ファラちゃん』って呼びたい」


予想外の提案にファラは「え……⁉」と目を丸くして困惑した様子を見せる。


だけど、マチルダ陛下との会話を思い出したのか、すぐにコクリと頷いた。


「ええっと、アディール様がそうお呼びになりたいなら、私は構いませんよ」


「……そう。じゃあ、私も貴女のことは『ファラちゃん』って呼ぶ。その代わり二人共、私のことは『アディ』って呼んでいい」

 

「わ、わかりました。では、その、アディ……様。これでよろしいでしょうか」


「……うん。『様』はいらなけれど、ファラちゃんの立場を尊重する」


アディは表情を変えずに淡々としているけれど、どうやら喜んでいるらしい。


デイビッドやキールと比べると少し変わっている印象を受ける。


それから程なくして、彼女はこちらを見据えた。


「……貴方のことは『リッちゃん』って呼ぶ」


これまた唐突な話に「え……」と目を丸くするけれど、ニコリと頷いた。


「わかりました、アディ。よろしくお願いします」


「……ふふ。リッちゃんは話がわかる」


彼女は何やら目を細めて笑っているけれど、その雰囲気はマチルダ陛下にそっくりだ。


すると、今のやり取りを見ていた皇子の二人がクスクスと笑みを溢す。


「どうやら、アディは相当に君達のことが気に入ったようだね。私もリッドのことは『リッちゃん』と呼ぶか」


「いいですね、兄上」


「あはは……お二人がどうしてもと言うなら、構いませんよ」


苦笑しながら答えると、こちらの反応が面白かったのか皇族の三人は楽し気に笑い始める。


うん、何とか仲良くなれそうだ。


笑顔の可愛い二人の皇子だけれど、デイビッドとキールは『ときレラ!』における攻略対象である。


彼等とヒロインが結ばれることで、前世の記憶にあるゲーム内の僕こと『リッド・バルディア』は『断罪』されていた。


それを事前に防ぐ意味でも、こうして親交を深めるのは有効な手段となるはずだ。


ただ、アディール皇女……『アディ』に関しての記憶はない。


だけど皇族である以上、彼女も要注意人物として注視するのが無難だろう。


それから間もなく、デイビッドが「ゴホン」と咳払いをする。


「じゃあ、リッド。そろそろ、バルディア領のことについての話を色々と聞かせてくれないか。最近、帝都ではバルディア領の商品が良いと評判なんだ。それに、さっき父上達との話出ていた木炭車とかどうやって開発の着想や発想を得たのか……良ければ是非とも聞いてみたい」


「兄上に同意します。帝城に置いてある本に、私はほとんど目を通しています。しかし、木炭車に繋がるような乗り物についての記載は一切ありませんでした。まるで、絵本や小説のようにポッと違う世界から沸いて出たようなそんな印象を受けます」


「……私も化粧水やリンスの開発に至った経緯に興味ある」


三人は表情こそ淡々としているけれど、その瞳には興味の灯が宿っていた。


核心に触れるようなことは話せないけれど、ここは今後のことを考えて彼らの問い掛けに答えるべきだろう。


「わかりました。では、現状のバルディア領についてお話しますね」


そう言って頷くと、内容に細心の注意を払いながら彼らにバルディア領について語り始めた。





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