第349話 リッドと謁見の間

皇帝陛下の呼び出しを兵士から告げられた僕達は、案内されるままに謁見の間に足を進めていた。


父上は慣れた足取りだけど、僕を含めファラやアスナの顔は少し強張っている。


やがて、豪華な装飾が施された大きい両開きの扉の前で、先導していた兵士が足を止めた。


「バルディア領、領主。ライナー・バルディア辺境伯とそのご子息、リッド・バルディア様。そして、レナルーテ王国第一王女、ファラ様をご案内致しました」声が轟くと、ゆっくりと扉が開かれていく。


扉の先に大きい空間が広がっており、一番奥には両陛下が玉座に鎮座している。


また、広間の両端には帝国貴族達が姿勢を正して佇んでいた。


良く見るとベルルッティ侯爵やベルガモット。


バーンズ公爵の姿もある。


目の前の光景と厳かな雰囲気に息を飲むと、その様子に気付いた父上がフッと笑った。


「ふふ、お前でも怖いか」


「……いえ、武者震いです」


「上等だ。では二人共、陛下の御前に赴くぞ。失礼の無いようにな」父上はそう言うと、貴族達の注目を浴びる中、臆せずに颯爽と陛下の前に足を進めていく。


僕とファラは互いに顔を見合せて頷くと、胸を張り堂々と後を追った。


父上は謁見の間の中央に辿り着くと、畏まり片膝をつく。


僕達も父上同様、畏まり片膝をついた。


それから間もなく、大広間に威厳のある声が轟く。


「遠路はるばる来てもらったのに、大分待たせてしまったな。良い、面を上げ楽にせよ」


「は、それでは失礼致します」


父上が畏まった声で答えると、僕は顔を上げる。


そして、玉座に鎮座している両陛下を失礼の無いように視線を向けた。


皇帝であるアーウィン・マグノリアは、澄んだ水色の瞳と短めで清潔感ある綺麗な金髪だ。


服装は思ったより質素で動きやすそうだけど、所々に装飾が施され気品さと豪華さが両立している印象をうける。


その時、意図せずに皇帝陛下と目が合ってしまった。


すると、皇帝陛下はニヤリと笑う。


「ふむ。そちらがライナー辺境伯の息子か」


「はい。恐れながら、息子から皇帝陛下にご挨拶をさせて頂いてもよろしいでしょうか」


「うむ、許そう」陛下の許しを得た父上は、こちらに目で合図を送ってくる。


僕は頷くと、玉座に鎮座する両陛下を真っすぐに見つめた。


「陛下、お初にお目にかかります。父、ライナー・バルディアよりご紹介預かりました、リッド・バルディアでございます。以後、お見知りおき下されば、幸いでございます」


「ほう……その歳で臆せずに口上を述べるとはな。それに、なかなかに良い面構えだ。なぁ、マチルダ」


「ええ、本当ですね。さすがはライナー辺境伯とナナリーの息子というところでしょうか」


両陛下が感嘆している様子だから、挨拶は問題なかったかな? と思いつつ、僕は皇后のマチルダ陛下に視線を移す。


彼女は意志が強そうな桃色の瞳に加え、薄い桃色の髪を後ろで纏めている。


とても気品に溢れ、凛とした印象を受ける女性だ。


でも、雰囲気が誰かに似ているような気がする。


僕の口上が終わると、両陛下は視線をファラに向けた。


「して、其方がレナルーテ王国、第一王女のファラ殿か」


「はい。恐れながら、私からも両陛下にご挨拶をさせて頂いてよろしいでしょうか」


「うむ」皇帝陛下の許しが出ると、彼女はこちらをチラリと横目で一瞥する。


背中を押すように、『大丈夫』という意図を込めて微笑んだ。


ファラは僕の仕草を見て、硬い表情を解くと改めて両陛下が鎮座する前を向いた。


「アーウィン陛下、マチルダ陛下、お初にお目にかかります。レナルーテ王国の国王、エリアス・レナルーテの娘。第一王女、ファラ・レナルーテでございます。しかし今は、バルディア家のご子息リッド・バルディア様と婚姻を結び、名をファラ・バルディアと改めております。以後、お見知りおきを下さい」口上を述べると、彼女は綺麗な所作で一礼した。


「さすがは、レナルーテ王国の王女だな。ライナーの息子であるリッドに負けず劣らず、素晴らしい口上だ。しかしすでに承知だろうが、今回の婚姻は我が国とレナルーテ王国の関係をより強固するためのもの。それ故、言動にはくれぐれも注意するようにな」


「はい、承知しております。両国がより強固で良好な関係となれるよう尽力する所存でございます」ファラは皇帝の言葉に臆せず、ニコリと頷いた。


その姿は、彼女の母であるエルティアを彷彿させる凛としたものだ。


両陛下と僕やファラの毅然としたやり取りを目の当たりにした貴族達から「おぉ」という感嘆の声が漏れ聞こえている。


程なくしてファラを見つめていたマチルダが、扇子で口元を隠しながら目を細めた。


「ふふ。ファラ・バルディア。全く私達に物怖じしないその姿、さすが王族です」


「全くだ。では二人共、今後も国の為に尽くすようにな」


「畏まりました」僕とファラは、両陛下の言葉に頭を下げる。


周りにいる帝国貴族からも、特に揚げ足を取るような指摘もない。


両陛下に対する挨拶はこれで問題ないかな。


そう思っていると、皇帝陛下が父上に問い掛ける。


「さて、ライナーよ。今日は、バルディア領で開発した品物やレナルーテから預かってきた献上品があるとも聞いている。その件についても、この場で話を聞かせてもらうぞ」


「承知しました。では、ご説明させて頂きます」


父上は皇帝陛下に答えると、僕に目で合図を送ってくる。


両陛下に対する挨拶も重要だけど、バルディア領の今後の発展に大きく関わるのはこの献上品だ。


さぁ、これからが本番。


気を引き締めていこう。


僕は父上にコクリと頷いた。




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