第346話 帝城に向けて

「ファラ、改めて今日ここで話したことは二人だけの秘密でお願いね」


「勿論、墓まで持っていく所存です」


「は、墓って……あはは、今際の際には言ってくれてもいいかな」


決意に満ちた目でファラが発した言葉に、思わず笑ってしまう。


すると彼女も、「じゃあ、その時までずっと秘密に致しますね」と破願する。


やがてファラとの密談が終わると、僕は部屋の外で待ってくれていたディアナとアスナに「待たせたね、もう大丈夫だよ」と声を掛けた。


二人は僕に会釈した後、部屋に入室するが特に何か尋ねる様子もなく平然としている。


程なくして、ファラが「コホン」と咳払いをした。


「リッド様、この後はどうしましょう」


「そうだね……必要なことは話せたからね。後は明日に備えようか」


「畏まりました。では、私とアスナは自室に戻りますね」


「うん、わかった」


僕は頷くと席から立ち上がった彼女を隣の部屋まで送る。


そして、自室に戻るとディアナに明日に備えてもう休むことを伝えた。


彼女は「承知しました」と会釈して部屋を後にする。


一人になった僕は、緊張の糸が切れたようにベッドで仰向けに寝転がった。


「はぁ……今日は馬車旅が終わって早々、ヴァレリ達との邂逅から父上との話し合い。それから、ファラに前世の記憶や疑似体験、断罪についても話して思った以上にヘトヘトだなぁ」


だけどその日は、なかなか寝付けなかった。


というのもファラにすべてを打ち明けたせいか、とても重い荷物を下ろしたような解放感と高揚感に包まれてしまったこと。


そして、明日はいよいよ帝城で両陛下に挨拶を行うということで胸が高まってしまったからだ。


それでも、暫くすると僕は深い眠りに落ちるのであった。



翌日、目が覚めると見慣れない景色が広がっており「……また、見慣れない天井だ」とお約束のように呟くと、ベッドから体を起こして目を擦り「うーん」と両手を上に上げて背伸びを行う。


そしてふとベッドの横に視線を向けると、何やら赤らめた見知った顔がそこにあった。


思わず目が合った僕は、きょとんとして首を傾げる。


「……ファラ、何をしているのかな」


「あの、その……朝起こすお役目をディアナから譲ってもらったんですけど」


「そうなんだね、なら起こしてくれれば良かったのに」


そう答えると、彼女は何やらはにかんだ。


「い、いえ、起こそうと思ったんですけど、リッド様の寝顔が可愛くて……つい眺めちゃいました」


「……え?」


思いがけない言葉に呆気に取られていると、ドアがノックされてディアナが「リッド様、失礼致します」と部屋に入り会釈する。


そして、僕達の様子を見ると「はぁ……」とため息を吐いた。


「ファラ様、恐れながら本日は登城する為、あまり時間がありません。リッド様の寝顔を楽しむのは、バルディア領に戻ってからにして頂きたく存じます」


「はい。わかりました」


「えぇ⁉」


二人の息の合ったようなやり取りに、僕は置いていかれるのであった。



着替えと朝食が終わると、僕は父上に呼び出されてディアナと共に執務室を訪れた。


「父上、よろしいでしょうか」


「うむ、入りなさい」


返事が聞こえると、執務室に入りいつも通りに父上と僕はソファーに腰かけた。


部屋の中には執事のカルロも居たけど、僕達が入室すると同時に彼は会釈をして退室してしまう。


恐らく、僕が着たら席を外すように予め父上から言われていたっぽい。


部屋が僕達だけになると、父上はおもむろに切り出した。


「登城する時間もあるので手短に済ますぞ……リッド、昨日はすべてをファラに話せたのか」


「はい。前世の記憶と疑似体験など話せることは全て伝えました」


「……それで彼女は何か言っていたか?」


父上の目には少し心配の色が見える。


恐らく、僕とファラのこと気に掛けてくれているのだろう。


僕は安心させる意味も含めて微笑んだ。


「はい。秘密を打ち明けてくれて嬉しいと言ってくれました。それから、バルディア家の一員として共に歩んでくれるとも」


「そうか、良い娘じゃないか。しっかり守ってやるんだぞ」


「勿論です。父上と母上のような夫婦になってみせますよ」


コクリと頷き答えると、父上は綻ばせていた顔に眉間に皺を寄せて「はぁ……」とため息を吐いた。


「全く……お前はいつも一言余計だ。陛下や貴族達の前ではその調子では困るぞ。気を引き締めろ」


「承知しております」


「ならば良いのだがな……まぁ、話は以上だ」


「畏まりました。では、失礼致します」


話し合いを終えた僕は執務室を後にして、自室に戻り準備と身嗜みを再度整える。


そして、いよいよ両陛下に挨拶を行うため登城するのであった。





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