第345話 リッドとファラの打ち合わせ
僕は自室でファラと二人きりで話を続けている。
内容は前世の記憶と疑似体験(ゲーム)で知り得たことから定めた、今後の活動や方向性の共有と説明だ。
ファラは真剣な面持ちで、静かに話しを聞きながら時折相槌を打っている。
「……というわけで、恐らく疑似体験の内容が動き出すのは恐らく今から約十年後ぐらいになると思う。だからそれまでに少しでも、バルディア領を発展させてどんな困難も乗り越える『力』を蓄える必要があるんだ。勿論、優先は母上の魔力枯渇症の完治だけどね」
「なるほど……畏まりました。私も、リッド様のお力になれるように尽力させて頂きます」
説明が終わると、彼女はコクリと頷くが同時に「はぁ……」と小さくため息を吐いた。
「まさかリッド様の疑似体験における断罪に、兄上まで関わっているとは少々驚きました」
「驚くのは当然だよ。だけど、レイシス兄さんとは今のまま良い関係を築ければ問題はないと思う」
疑似体験における『ときレラ!』の全貌について説明した際、彼女の兄であるレイシスも場合によって僕の断罪に関わっている事も伝えている。
その時、ファラは目を丸くしていたけど話を折らない為か、こちらへの質問を飲み込んでくれた様子だった。
恐らく、説明が終わった事で驚きを露わにしたのだろう。
「そうですね……あ、でも、兄上は少し惚れっぽいところがありますからね。その、マローネという少女には気を付けないといけないかもしれません。恋は盲目と言いますし、女性に惑わされた権力者は歴史的にも多いですからね」
「あ~……」
彼女の言葉で忘れたい記憶が蘇ってくる。
確かに彼が惚れっぽいところがあるのは事実だし、そのおかげで僕もユニークな経験をすることになった。
とはいえ、さすがに義理の弟になった僕を断罪に追いやる真似をしないだろう……と思いたい。
「ま、まぁ、流石に大丈夫だと思うよよ。それに、いざとなれば良い人を紹介する方法もなくはないかもしれないしね。あはは」
冗談のつもりでおどけて言うと、ファラがハッとする。
「その方法は良いかもしれません。幸い、兄上の好みはわかっていますからね」
何やら目を欄欄とさせてこちらは見つめる彼女に「え……⁉」と、呟くと僕は首を横に振った。
「いやいや、さすがに冗談だよ。それに、一国の王子である彼の婚姻相手なんて僕達にはどうにもできないさ」
「そっか……それもそうですね」
彼女はそう言って楽し気に笑った後、何かを思い出したように呟いた。
「それにしても、ラティガ様やヴァレリ様が披露した物語の『ときめくシンデレラ!』は、リッド様と同じ疑似体験。つまり、予言に近い内容ということなんですね」
「うん、そうなんだ。まさか、あの内容を『物語』にして語るなんて考えてもいなかったよ」
ヴァレリ達なりに考えての行動何だろうけど、かなり危なっかしい方法だ。
そのことについてファラも察してくれたらしく、苦笑をしながら話を続ける。
「ところで何故、御義父様には『断罪』の件をお話にならないのですか」
「それは……今は話せないと考えているんだ。父上は母上や帝都のことで手が一杯だからね。今の父上に『バルディア家は将来的に断罪される可能性があります』なんて伝えたら、きっと心労で髪がダイナス団長みたいになっちゃうよ」
「御義父様の髪がダイナス団長のように……ですか」
彼女はポカンとした後、程なくして「ふふ……うふふ」と小刻みに震え始めた。
恐らく父上の髪形がスキンヘッドになった姿でも想像しているのだろう。
ちなみに彼女から指摘された通り、父上には前世の記憶や疑似体験について話してはいるけど全容は伝えていない状況だ。
「勿論、母上の『魔力枯渇症』が完治したら疑似体験における全貌は伝えるつもりだから安心して」
「は、はい。畏まりました……そ、それにしても、御義父様がダイナス団長のような頭に……ふふ、ふふふ」
どうやら父上のスキンヘッドの姿が、ファラの笑いのツボに入ってしまったらしい。
彼女はそれからしばらく、耳をパタパタさせながら可愛らしく笑いを堪えていた。
◇
「ファラ、落ち着いたかい」
「はい。取り乱して申し訳ありませんでした」
彼女はそう言うと、ペコリと会釈する。
彼女が想像した父上のスキンヘッド姿を聞いてみたい気もしたけど、さすがに脱線し過ぎるからまたの機会しよう。
「さてと、じゃあ話を戻すけど、今後の問題となる相手はまだ会っていない子達との出会い。後はヴァレリとラティガの動向という感じだね」
「はい、ヴァレリ様達の動向については私にお任せください。この機にお友達になって、親交を深めて色々と尋ねてみようと思います。その際、私がリッド様と前世の記憶と疑似体験について共有したことをお伝えしてもよろしいでしょうか。人は秘密を打ち明けられた相手に、吐露しやすくなりますから」
しれっと怖い事という彼女だけど、表情は真剣そのものだ。
「わかった。その辺りは、ファラの判断に任せるよ。でも、何か気付いたことや異変があればすぐに教えてね」
「承知しております、お任せください」
ニコリと微笑んだ後、彼女は力強い視線をこちらに向けて頷いてくれた。
これで、ヴァレリ達の動向を探る方法は問題ないかな。
ファラだけでは対応が難しいとなれば、第二騎士団の特務機関の子達にも協力を指示すれば良いしね。
「後はまだ会えていない子達の動向も気になるけど、こればかりはどうしようもないね」
「そうですね……あ、でも、リッド様はデイビッド皇子様とキール第二皇子様には明日お会いできるんじゃないでしょうか」
「うーん、どうだろう。今回はあくまで両陛下との挨拶と聞いているから期待はしない方がいいかもね。だけど、僕はそれより平民生まれで各国の王族の心を射止める『マローネ』っていう女の子が気になるかな。恐らく、この娘もかなり僕達の『断罪』に関わって来るはずだからね」
首をひねりながら答えると、彼女は少し難しそうな顔をした。
「それはそうですけど……現時点でマローネという少女が平民ということであれば、ある意味貴族よりも会うのは難しいかもしれません」
「やっぱりそうだよねぇ」
相槌を打つと、僕は額に手を添えて思案する。
『ときレラ!』に出て来るメインヒロインの『マローネ・ロードピス』は元平民なのだ。
ゲームの物語上において、彼女はその容姿や器量の良さからロードピス男爵家に養女として迎えられたはず。
つまり、僕達と同い年の彼女は、恐らく帝国のどこかで普通の少女として過ごしているだろう。
しかも、彼女の容姿を僕はうろ覚え状態であり、仮に彼女の容姿を覚えていたとしても成人に近い年齢である。
だからどの道、少女姿の『マローネ』と現段階で会うのはほぼ不可能と言って良い。
「まぁ、いずれ出会うことになるだろうから、その時に向けて準備だけはしっかりしておくしかないよね」
「はい、リッド様の仰せの通りだと思います。それに、案外近いうちに出会えたりするかもしれませんよ」
「あはは、かもしれないね」
ファラの言葉に、僕はおどけて笑う。
こうして僕は、ファラに前世の記憶と断罪についての秘密を打ち明けると同時に、彼女を必ず守り抜こうと心の中で強く誓うのであった。
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