第340話 リッドの吐露3

今、僕と父上は互いにソファーに腰かけ、机を挟み対面している。


父上は、僕の説明を聞きながら時折相槌を打っている。


やがて粗方の説明が終わると、父上はようやく合点がいった面持ちを浮かべてこちらに確認を行うように呟いた。


「なるほどな。つまり、ヴァレリはリッドと同じで『前世の記憶』を取り戻した。しかしその結果、前世の記憶にある疑似体験により、エラセニーゼ公爵家に将来訪れるであろう苦境を悟る。それに立ち向かう為、彼女同様に前世の記憶を持っているであろう人物を、何としても探し出したくて当家に唐突に訪れた……ということだな」


僕はその問い掛けに頷くと、話を続けた。


「はい、仰る通りです。そして、先程お伝えした通り恥ずかしながら彼女達の作戦に嵌ってしまい、私が前世の記憶を持っていることは看破されています。その代わり、こちらもヴァレリ様が前世の記憶を持っていることを把握することはできました」


「ふむ……『把握した』とは、ものは言いようだな。しかし、今後対峙する帝国貴族相手にもその調子では困る。気を引き締めろ」


「う……承知しております。以後、気を付けます」


厳しい指摘に、僕は思わずタジタジとなった。


恐らく、バツの悪そうな面持ちになっていることだろう。


父上はそんな僕の表情を見てニヤリと笑うが、すぐに別の話題を切り出した。


「しかし、彼女が疑似体験したという『苦境』とはどのような内容なのだ」


「それに関しては、私もまだ伺えておりません。ですが、デイビット皇太子とヴァレリ様が両想いにでもなれば解決できるとも言っていました」


さすがに、ヴァレリが悪役令嬢という立場になりエラセニーゼ公爵家が断罪される……とは言えず、苦境という言い方をしている。


この件に関しては、ディアナも内容を知らないから何も指摘はないはずだ。


ヴァレリとデイビッド皇太子の関係が将来的に改善すれば、解決できる問題というのもあながち間違いではない。


彼女からの協力したいという申し出の内容は、主に皇太子との関係改善を手伝う可能性が高いだろう。


それにヴァレリとデイビット皇太子が仲睦まじくなることは、僕の断罪やバルディア家の皆を救うことにも繋がるはずだ。


僕の答えを聞いた父上は、やがて乾いた笑みを溢した。


「はは、まるで小説か物語のような解決策だな。だが、二人の関係が悪化すればエラセニーゼ公爵家に、何かしらの苦境が訪れる可能性はある。そう考えると、あながち間違ってもおらん……か」


「はい。それに、前世の記憶を持ったヴァレリ様を野放しにするのは危険です。表向きは『協力体制』を取りながら、こちらとしては彼女を監視するべきかと。従いまして、私は今回の協力の申し出は受けたいと考えています」


ヴァレリは『前世の記憶』が曖昧と言っていたが、それが本当かどうか確かめる術もない。


それに、今は彼女の言う通り記憶が曖昧だったとしても、何かの拍子に鮮明に思い出す可能性もある。 


その時に、彼女が敵になるのか、味方で居てくれるのか現状ではわからない。


勿論、味方であればそれに越したことはないけど用心はしておくべきだろう。


「……確かに、お前と同じ『前世の記憶』を持っているのであれば色んな意味で危険な存在になりえるだろう。特に革新派の貴族が知れば、囲い込みに走るやもしれん」


そう呟くと、父上は口元に手をながら目を瞑り思案する様子を見せる。


僕は、考えを邪魔しないように静かに答えを待った。


それから程なくして、父上が深呼吸をして「ふぅ……」と息を吐くと目を開けてこちらに視線を向ける。


「わかった。ヴァレリとの協力体勢に関して、私も陰ながら力を貸そう。しかし、ヴァレリ達には私が『前世の記憶』について把握していることは漏らすなよ。知らなければ、余計な事を言う事もあるまい」


「承知しました。ありがとうございます」


父上の言葉に会釈しながら答えた僕は、「それと、父上」と続ける。


「うん、どうした」


こちらの問い掛けに、首を傾げる父上に対して僕は深呼吸をすると意を決する。


「この機に、ファラとアスナにも私の『前世の記憶』について、伝えようと思っています」


僕の言葉を聞いた父上は、少し驚いた感じでハッとするがすぐにニヤリと笑った。


「そうか。別室にはファラも居たのだったな。あの二人なら信用できるだろう。良かろう、それはお前の判断に任せる」


「はい、ありがとうございます」


良かった。


父上の了承もとれたから、これで心置きなくファラやアスナに僕が『前世の記憶』を持っていることを話せる。


そう思っていると、父上がふと思い出したように呟いた。


「ふむ、折角だ。両陛下への挨拶と後日開かれる懇親会についても一応、確認しておくか」


「あ、はい。畏まりました」


その後、僕と父上はそのまま別の話題に話を切り替えて打ち合わせを続けるのであった。





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