第339話 リッドの吐露2
執務室に辿り着くと、父上から促されるままに僕はソファーに腰かけた。
ディアナは座らずに、傍に控えてくれている。
程なくして父上は一緒にやってきた、執事のカルロに声を掛けた。
「カルロ、悪いが紅茶を淹れてくれ」
「承知しました」
彼は会釈して答えると、紅茶の用意をする為に執務室から退室する。
すると、父上は机を挟んだ正面のソファーに腰を掛けた。
「さて、リッド。急ぎ話したい事とはなんだ」
「そうですね。少し長くなると思いますから、カルロが紅茶を持ってきてからでもよろしいでしょうか」
残念ながら執事の彼には話せることではない。
その意図を込めて僕が答えると、父上は理解してくれた様子で頷いた。
「ふむ……よかろう」
「ありがとうございます。それはそうと、父上はバーンズ公爵様とどのようなお話をされたんですか?」
「うん、私か? そうだな……」
僕の問い掛けに、父上は思い返すように口元に手を充てる。
ヴァレリ達の様子から、バーンズ公爵達には話していないと思うけど、念のため聞いてみた感じだ。
やがて、父上は思い出すように話始めた。
「……バーンズの妻であるトレニアから、クリスティ商会で扱っている化粧品やリンスを何とか融通して欲しいと熱く言われたな。後は、子供達の自慢話をバーンズから散々聞いたが……それがどうかしたのか」
「いえ……ちなみに、子供達の自慢話はどんな内容だったんでしょう」
父上は僕の質問が続くことで、怪訝な表情を浮かべるが意図があると察してくれたのか話を続けてくれる。
「ふむ。まず、息子のラティガが妹の面倒見が良くなったそうだ。他にも、以前より剣術や勉学に対しての意識が強くなったとか。他にも、娘のヴァレリの成長が凄いとか言っていたな。以前は嫌なことがあると癇癪を起していたそうだが、大人のように落ち着いているそうだ。まぁ、たまに調子に乗る部分はあるそうだがな」
僕が「なるほど」と相槌を打った時、部屋のドアがノックされ執事のガルンが紅茶を淹れてきてくれた。
彼は僕達の前に紅茶を差し出すと「では、また何かあればお呼び下さい」と言って部屋を後にしようとしたが、父上が声を掛け呼び止める。
「カルロ。私とリッドの話が終わるまで、誰も執務室には通さないようにな」
彼は「心得ました」と言って父上に一礼すると、そのまま部屋を退室する。
それから間もなく、父上が僕の目を見つめた。
「これで心置きなく話せるだろう。ヴァレリ達と別室に行った時に何があったのか……聞かせてもらうぞ」
「お気遣い頂きありがとうございます、父上。では、単刀直入にお伝えいたします」
「うむ……」
父上は相槌を打ちながら、紅茶を口に運んでいる。
その中、僕は淡々と話し始めた。
「実は、バーンズ公爵の令嬢である『ヴァレリ・エラセニーゼ』様ですが、彼女は僕同様に『前世の記憶』をお持ちのようです」
「……ゴホゴホ⁉ な、なんだと……」
予想外の話だったのか、父上は口にした紅茶で咽ながら驚愕した面持ちを浮かべている。
だけど、僕は意に介さずそのまま話を続けた。
「そして、彼女も『前世の記憶』において現世を疑似体験しているらしく、今後において僕と協力体制を取りたいとのことです」
淡々と話をしていると、父上が両手を僕に向けて制止を求めるような仕草を行った。
「ま、待て。もう少し、詳しく説明しろ。そもそも、バーンズの娘がお前同様に『前世の記憶』を持っていると何故わかったんだ」
「それは……彼女自身から打ち明けられました。またその際、恥ずかしながら僕自身が『前世の記憶』を持っている事も看破されています」
「う、打ち明けられた……だと? いや、それよりも看破されたとはどういうことだ」
僕の話した内容に、父上はまた愕然としている。
そんな父上に、僕は「あはは……」と苦笑しながら事の経緯を説明した。
ヴァレリが『前世の記憶』でこの世界を疑似体験していことを『物語』にして、彼女の兄であるラティガに『ときめくシンデレラ!』語らせことから始まる。
その目的は『化粧水』などを開発したバルディア家の中に、前世の記憶を持った人物がいることを確信していたヴァレリによる、該当者の炙り出す為の作戦だったこと。
そして、その作戦に僕がまんまと嵌ってしまったことを伝え、その際にヴァレリ自身からも打ち明けられたことを説明した。
父上は僕の話に呆れ果てた様子で「はぁ……」と深いため息を吐くと、額に手を充てながら首を軽く横に振った。
その様子を見ていたディアナが、おもむろに話に加わる。
「恐れながら、ライナー様。私もその場に同席しておりましたが、ヴァレリ様が嘘をついている様子もありませんでした。リッド様の仰っていることはすべて事実でございます」
父上はディアナの声に反応して、眉間に皺を寄せると深呼吸を行う。
それから間もなく、こちらに視線を向けた。
「ならば、ヴァレリが『前世の記憶』を持っていることをバーンズは知っているのか」
「いえ、それは無いようです。ヴァレリ様が『前世の記憶』を持っていることは、彼女の兄であるラティガ様しか知らないようです。それも、今日まで半信半疑という感じだったみたいですね」
僕の答えを聞いた父上は、眉間に皺を寄せると険しい面持ちのまま目を瞑った。
恐らく、色んな考えを巡らせているのだろう。
程なくして、父上はゆっくりと目を開ける。
「どうも、要領を得んな……リッド、悪いがもう一度最初から端折らずにすべて説明してくれ」
「承知しました」
その後、僕はヴァレリとラティガが、最初から目的を持ってやってきていたことから始まり、彼らが行った作戦。
前世の記憶についてや彼女達が求める今後の協力体制についてなど、事細かに説明を始めた。
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