第338話 リッドの吐露
ヴァレリやラティガとの話し合いが終わると、僕は部屋のドア近くに控えていたディアナとアスナの二人に対して、ここで聞いた内容を絶対に口外しないように指示を出した。
その時、ディアナからは鋭い視線を向けられ指摘を受ける。
「私達は構いませんが、ライナー様には必ずご説明をお願いいたします」
「勿論だよ。その時には、ディアナにも立ち会ってもらうつもりさ。その方が、説明の漏れもないだろうからね」
彼女が会釈して答えてくれた後、僕はアスナに視線を移して話を続ける。
「勿論、アスナにもファラと一緒に後で説明するよ」
「承知しました。ご配慮くださりありがとうございます」
彼女はそう言うと、少し嬉しそうに一礼していた。
そんなやりとりを経て、僕達は父上達がいる部屋に移動したのである。
その後、部屋に入るとバーンズ公爵が笑みを浮かべてヴァレリ達に話しかけた。
「お、戻って来たか。随分と長く遊んでいたようだね。ヴァレリ、ラティガ。リッド殿やファラ殿とは仲良くなれたかな?」
「はい、父上。私達は良い友人になれると思います。ね、兄様」
「はは、そうだね」
彼女達はバーンズ公爵に頷きながら答えると、こちらに笑みを浮かべて視線を向けてきたので僕もニコリと頷いた。
「そうですね。ヴァレリ様やラティガ様とは、僕もとても良い友人になれると感じました」
「私もリッド様と同じ気持ちです」
ファラも僕の言葉に続くように頷いてくれている。
恐らく、僕に合わせてくれたんだろう。
僕達が笑みを浮かべていることにバーンズ公爵やトレニア夫人、父上も少し安堵したような表情をうかべているようだ。
それから程なくして、バーンズ公爵の一家はバルディア家の屋敷を後にする。
その際、バーンズ公爵から去り際に「リッド殿が行う皇帝陛下への挨拶をとても楽しみにしているよ」と言われて「あはは……」と僕は苦笑していた。
バーンズ公爵一行が乗った馬車が見えなくなるまで見送ると、父上が少し呆れた感じでため息を吐く。
「はぁ……全く、突然の訪問は困るといつもバーンズには伝えているのだがな。さぁ、少し遅くなったがお前達に屋敷の中を案内しよう」
「はい、ありがとうございます。父上」
父上はそう言うと、執事のカルロにも声を掛けて屋敷の中を案内してくれた。
帝都の屋敷はバルディア領にある屋敷を模して造られているそうだ。
そのおかげか、あまり帝都に来たという感覚はそこまでしない。
何故そんな造りになっているのかと、尋ねてみると父上は懐かしそうに教えてくれた。
「バルディア領と帝都は離れているからな。まぁ、気休め程度だが平常心を維持できるようにという私の父……リッドの祖父にあたる『エスター・バルディア』の考えだ」
「へぇ、面白い考えですね。ちなみに、祖父上ってどんな人だったんですか」
僕は相槌を打ちながら、意外な人物の名前に少し驚いた。
祖父である『エスター・バルディア』は、僕が生まれる前にはすでに他界していたから会ったことはない。
だけどバルディア領の屋敷には、祖父母の仲睦まじい様子が描かれた肖像画が置いてある。
その絵を通じて、何度か祖父母のことをガルンとかに聞いたことはあるけどね。
ちなみにガルン曰く、祖父は普段はおどけていることが多かったが、怒ると目力が父上と同等かそれ以上に怖かったそうだ。
父上は僕の問い掛けに歩きながら思案していたけど、やがて笑みを少し溢し始めた。
「はは、そうだなぁ。考えてみればお前のように型破りなことばかりして、周りを振り回していた人だったような気がするよ」
「む……失礼ですが、僕はそんな周りを振り回してなんかいません。ただ、より良くなるように色々と考えているだけです」
父上の言葉にムッとして答えると、一緒に歩いていたファラ達が「クスクス」と笑い声が聞こえたような気がした。
だけど、間もなく父上が楽し気に呟く。
「ふふ、そんなところも父にそっくりだな。まぁ、この件はまた機会があればお前達にも話そう。それよりも、部屋に着いたぞ。お前達の部屋は隣同士だ。何かあれば、執事のカルロやメイド達を尋ねてくれ。私は執務室に行くからな」
「承知しました……あの、父上」
「うん。どうした」
少し首を傾げている父上に対して、僕は真剣な話があると伝わるように畏まりながら言葉を続けた。
「お忙しいとは思うんですが、急ぎお話したいことがあります。後でも構いせんので今日中にお時間を頂けないでしょうか」
「……わかった。では、これから一緒に執務室に行こう」
こちらの意図が伝わったらしく、父上の表情が先程よりも厳格なものになっている。
僕は父上に「畏まりました」と頷くと、視線を傍にいるファラに移した。
「ファラ、君にも後でまた色々と話すね」
「はい、リッド様。いってらっしゃいませ」
その後、僕はディアナと一緒に父上の後を追いながら執務室に向かって移動するのであった。
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