第330話 リッド、帝都に向けて

「帝都の両陛下には、謁見の申し入れて現在日程確認中だ。だがまぁ、ここ一ヶ月ぐらいには帝都に行く事になるだろう。二人共、それまでに準備しておくようにな」


「承知しました」


「はい、御父様」


僕とファラが頷いたことを確認すると、父上は視線をこちらに向けた。


「特にリッド、お前の準備はクリスやエレン達と念入りに頼むぞ。帝都における屋敷で中央貴族を呼んで行う懇親会……実質的にはバルディア家が扱う商品を披露する場でもある。わかっているな」


「勿論です、父上」


父上の問い掛けに、僕は自信を持って答え不敵に笑う。


すると、隣に座っていたファラがきょとんとしながら首を傾げた。


「リッド様、その『商品を披露する場』というのはどういうことでしょうか?」


「あ、そっか。ファラにはまだ説明していなかったね」


そう言うと、僕はファラにバルディアで現在生産しているものや、今後売り出そうと考えていることについて話始めた。


帝都に行くのは皇帝と皇后の両陛下に、ファラがレナルーテ王国の王女として挨拶するのが一番の目的になるだろう。


だけど、折角帝都に行くのにそれだけでは勿体ない。


当然、『懐中時計』や『木炭車』を中心に中央貴族に売り込み場を設ける予定だ。


「なるほど……さすが、御父様とリッド様が考えることは凄いですね」


ファラは僕の説明を聞き終えると、納得した様子でパァっと明るく微笑んだ。


「ありがとう。だけど、一番の目的は両陛下に挨拶することだからね。バルディア家で行う懇親会はおまけだよ」


彼女の見せる笑顔に、僕は少し顔が火照るのを感じつつ答える。


だけど内心では、今回の帝都訪問は気掛かりなことも多く油断はできないと考えていた。


何故ならこの件に関して、レナルーテで初めて顔を合わせた『バーンズ公爵』も絡んでいるからだ。


彼は『ときレラ!』に登場する『ヴァレリ・エラセニーゼ』という悪役令嬢の父親である。


前世の記憶を辿っても詳細はわからないけど、僕は悪役令嬢と関わりを持つ事で断罪される道を歩んでしまうのだ。


そんな悪役令嬢の父親と、父上の親交が厚いと分かった時は動揺してしまったけど、現時点から悪役令嬢の動向を把握できると僕は考え方を前向きに改めた。


他にも、気掛かりな点として『ファラ』の存在も挙げられる。


彼女は前世の記憶にある『ときレラ!』には出て来なかった。


彼女と悪役令嬢が出会うことでどんなことが起き得るのか……それもまた未知数と言っていいだろう。


無理に関係を作る必要はないけど、彼らが『懇親会』を訪ねてくれば否応なしに顔を合わせるはずだ。


何があっても大丈夫なように覚悟はしておくべきだろう。


その時、何やら少し重々しく父上が口を開いた。


「それはそうと、懇親会の招待状は有力な中央貴族達に全員に送る予定だ。普段、バルディア家と繋がりが薄い貴族も恐らく今回は来るだろう。リッド、ファラ、お前達には少し苦労を掛けるかもしれんが感情的にならず、冷静に対応するようにな。何かあればすぐ私に相談しなさい」


「承知しました。しかし、普段の繋がりが薄い貴族も今回は来ると言うのは、やはりバルディア家の商品に注目が集まっているということでしょうか」


「うむ。勿論それもあるが……」


僕の問い掛けに父上は頷くと、珍しくもったいぶるような言い方をする。


思わず首を傾げると、父上はファラを一瞥してから話を続けた。


「中央貴族達の一番の目的はお前だよ、リッド」


「はい? すみません、父上。仰っている意味がわかりかねるのですが……」


予想外の言葉に、僕は呆気に取られた。


バルディア家の懇親会にやってくる中央貴族達の目的が、僕と言われてもいまいちピンと来ない。


そもそも、僕は帝都に行ったこともなく中央貴族に面識もないというのに。


すると、父上は僕が考えたことを察したのかニヤリと笑った。


「良かろう。この機会に帝国の貴族界隈における、お前の立ち位置を教えてやろう」


「は、はぁ……」


「……少々、ファラには嫌な話になるかもしれんがな」


「私が、ですか?」


きょとんとする彼女と僕が顔を見合わせると、父上がおもむろに呟いた。


「リッド、お前と歳が近い『娘』を持つ中央貴族達からすれば、他に類を見ない程の『優良物件』となっている。それ故、何とかお前と懇意になろうと画策してくるだろう」


「えっと……度々で申し訳ありません、父上。僕が『優良物件』とはどういうことでしょうか?」


父上の思いがけない言葉に唖然とする僕とファラ。


そんな僕達に父上は中央貴族から、バルディア家がどう見られているのか、説明を始めるのであった。





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