第329話 決着後
ファラとの鉢巻戦が終わり、新屋敷や第二騎士団の案内も一通り済んだ僕は皆と本屋敷の帰途に着く。
しかしいざ屋敷に到着すると、早々にガルンを通じて父上に呼び出されてしまう。
そして今、執務室にて父上が座る机の前に僕とファラは立たされている。
アスナやディアナも僕達の後ろに控えている状態だ。
僕とディアナは慣れているけど、普段と違うピリッとした父上の雰囲気にファラとアスナは萎縮しているらしく表情が硬い。
やがて父上から『鉢巻戦』について問われ、僕が事の経緯を丁寧に説明する。
話を聞き終えた父上は、この場にいる僕達全員に対してギロリと睨みを利かせた。
「要するに、第二騎士団の団員にファラを認めさせるため、団員達を観客にして『鉢巻戦』を行ったということか。はぁ、バルディアに帰ってきて早々、お前達は二人して何をしているんだ、全く……」
「返す言葉もございません、申し訳ありませんでした。父上」
「申し訳ありませんでした。御父様」
父上からの叱責に頭を下げて謝罪をすると、隣にいたファラや後ろに控えていたディアナとアスナも同様に頭を下げた。
僕達の言動を確認した父上は、額に手を添えて呆れた果てた表情を浮かべながら首を横に振っている。
父上の様子に、僕は申し訳なさそうに「あはは……」と苦笑した。
程なくして「はぁ……」と、父上が深いため息を吐いてから話を続ける。
「それで、第二騎士団の団員達は鉢巻戦でファラのことを認めたのか」
「は、はい。団員の皆は鉢巻戦後からファラに対する態度が変わった感じがしたので大丈夫かと。ね、ファラ」
「はい。試合後は第二騎士団の皆さんから、『姫姐様』と呼んでもらえましたから」
彼女は嬉しそうに父上の問い掛けに答えるが、メルの言う『姫姉様』とは少し違う意味のような気がする。
まぁ、ファラが気に入っているみたいだから、良いんだけどね。
僕はファラと父上のやり取りを横目に、鉢巻戦が終わった後の事を思い出す。
鉢巻戦が終わると、僕とファラは服装を着替える為に武舞台を後にした。
着替えが終わると、第二騎士団の皆と僕達は宿舎の大会議室に場所を移す。
そして、最初に訪れた時同様にファラと彼らが話す場を設けたんだけど、第二騎士団の皆はファラに目を輝かせて群がった。
理由は勿論、鉢巻戦で見せた武術についてだ。
兎人族のオヴェリア、猫人族のミア、狼人族のシェリル、熊人族のカルア、鳥人族のアリア、狐人族のラガードとノワール等々、第二騎士団において分隊長の立場にある子達が中心となり、彼女が使っていた武術について問い掛けていた。
ファラも同い年ぐらいの子達に、あれだけ囲まれ質問されることは初めてだったらしい。
可愛らしく慌てながらも、楽しそうに一生懸命答えていた。
その中で、特に印象に残っていたるのは猫人族のミアがファラに問い掛けた時のことだ。
「それにしても、一国の王女様だったんだ……ですよね。それなのにどうして短期間でそこまで強くなれたんですか」
「ふふ、それはですね。そこにいるアスナやレナルーテで私に武術を教えてくれたザックという人のおかげなんです」
「……その話は僕も興味があるね」
思わず隣にいた僕も尋ねてしまったけど、彼女はクスクスと笑いながら楽し気に話してくれた。
ファラは僕との婚姻が正式に決まるまで毎日の時間のほとんどを礼儀作法や勉強、様々な教養を身に着けることに充てていたらしい。
しかし、正式に婚姻が決まってからは、新たに『ザック』から習い始めた『武術』にほぼすべての時間を注いだそうだ。
その為、毎日が朝から晩までほぼ武術付けの日々になっていたとのこと。
「ザックから教えを受けれたこともそうですが、アスナが私の専属護衛だったことも良い巡り合わせだったのでしょう」
「どういうこと?」
首を傾げて問い掛けると、彼女は思い出すように話を続けた。
ザックから武術を習い始めた彼女だったが、彼にもすべき業務がある。
その為、時間帯や日によってはザックからの教えを受けれない時もあったそうだ。
そんな時、ザックの代わりに武術を教えたのがアスナだったという。
アスナはザックとファラに教える武術の内容を共有。
彼が対応できない時は、アスナとひたすら修練に励んだそうだ。
話を聞いた僕は「なるほどねぇ……」と言いながら、ジトっとした視線をアスナに向ける。
すると、彼女はバツの悪そうな面持ちで「ゴホン」と咳払いした。
「確かに、姫様の仰る通り私も武術修練に協力させて頂きました。しかし、これだけの実力を身に着けたのは、姫様がそれだけの見込みが早い上にしっかりと努力したからでございます」
「貴方にそう言ってもらえると自信になりますね。ありがとう、アスナ」
ファラが彼女に笑みを見せて答えると、獣人族の子達が感心した様子で「へぇ~」と相槌を打つ。
その中、狐人族のラガードが代表するように呟いた。
「なるほどですねぇ。お姫様でも、頑張ればここまで強くなれるとは驚きました。しかし、元王女様でリッド様の妻になる人ですよね。俺達にとって『姐さん』みたいなものだから……うん、良ければ『姫姐様』とお呼びしてもよろしいでしょうか」
「……⁉ ラガード、いきなりそんな呼び方は失礼でしょう」
彼の言葉に慌てるように反応したのは狐人族のノワールだ。
だけど、彼女の注意にファラが笑みを溢しながら答えた。
「いえいえ、私は構いませんよ。それに、皆さんはリッド様直属の騎士団と伺っています。どうか、気軽に接して下さい」
獣人族の子達は彼女答えを聞くと、気を良くしてそれ以降はファラの事を『姫姐様』と呼ぶようになったというわけだ。
その後、少し調子に乗り過ぎた子もいたけど、ディアナやカペラから注意を受けるとすぐに大人しくなったから問題はないだろう。
何はともあれ、ファラと第二騎士団の皆がうまくいきそうで良かった。
父上も僕達の話を聞いて安堵したのか、少し表情を和らげてファラを見つめる。
「そうか、それなら良かった。しかし、君には立場上これからも色々と苦労をかけるだろう。何かあれば、リッドか私に直接言いなさい。リッドの妻となった以上、君は私の娘でもあるんだからね」
「有難いお言葉、感謝致します。御父様」
ファラが嬉しそうに答えると、父上はあまり僕には見せないような優しい表情を浮かべて頷いた。
そして、再度この場に居る僕達を見回すと表情を引き締める。
「では、そろそろ本題の『帝都』に行く件について話すとしよう。お前達、そっちのソファーに座りなさい」
「承知しました」
促されるまま、僕とファラは執務室のソファーの席に着く。
父上も執務机から立ち上がると、僕達の机を挟んだ正面にあるソファーの席に腰を下ろした。
それから程なくして、父上は帝都も行く日程について話始めるのであった。
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