第301話 華燭の典を行う場所とは
「……ここで、式を挙げるの?」
「はい。ここは、レナルーテで一番神聖と言われている場所なんですよ」
僕の呟きに、隣で少し照れた表情を浮かべたファラが嬉しそうに答えてくれる。
だけど僕は、目の前にある『場所』の作りに驚きのあまり絶句していた。
それというのも、前世の記憶にある『神社』そのものだったからだ。
華燭の典に向けた段取り確認と事前準備を本丸御殿で行った後、ファラ達と一緒に僕は式を実際に行う場所に移動していた。
ちなみに僕達が今着ている服装は普段着に戻っている。
さすがに式で使う着物をその前に汚すわけにいかないからね。
なお、僕が着た『袴』のサイズはぴったりで驚いたけど、事前に父上達がサイズをレナルーテ側に伝えていたらしい。
まぁ、当然と言えば当然だけどね。
やがて神社の入口にある大きな鳥居を潜り境内に入ると、そこには本殿と思われる大きな建物が目に入る。
境内の中は日本庭園で言う枯山水のような造りになっており、空気がとても澄んでいると言えばいいだろうか。
自然と感嘆の声を出してしまう。
「凄く綺麗で素敵なところだね」
「リッド様にも気に入ってもらえて良かったです。前に見える大きな建物は本殿や拝殿を覆殿で囲っているんですよ」
ファラが楽し気に答えてくれたので、僕は笑みを浮かべて頷く。
その後もファラとの会話を楽しみながら境内の中を進み、神前式を行う場所に移動していく。
カペラは無表情で僕の後ろに控え、ディアナはアスナと笑みを浮かべて話しているようだ。
境内の中では、白と赤の巫女服を着ているダークエルフの女性達が綺麗な所作で歩いており、自然と目があちこちに泳いでしまう。
その時、ファラが何やら少し不満げに呟いた。
「リッド様は『巫女』がお好きなのですか?」
「え⁉ あ、いや、そういうわけじゃないんだけど、バルディア領じゃ見ない服装だから珍しくてね」
思わぬ彼女の指摘に、僕は慌てて決まりの悪そうな表情を浮かべて答える。
実際、ダークエルフの綺麗な女性が『巫女服』を着ているのは流石に目で自然と追いかけてしまう。
ファラは僕の答えを聞くと、頬を少し膨らませた。
「むぅ……それはそうかも知れませんけど、少し見すぎですよ」
「あ、あはは。ごめんね、気を付けるよ」
苦笑しながら答えると、彼女は何やら小声で呟く。
「あ、そうです‼ 私の分を用意してこっそり持っていけば……」
だけど……良く聞こえなかったので、確認するように僕はファラに問いかけた。
「えっと、ごめん。良く聞こえなかったんだけど……」
「あ、いえ、こちらの話なので気にしないで下さい」
「そ、そう?」
耳を少し上下にさせながら笑みを浮かべるファラの表情に、何故かメルや母上が時折見せる悪戯な笑みを思い出すのは気のせいだろうか?
その時、アスナが呆れ顔を浮かべて首を横に振った。
「はぁ、姫様……また良からぬことを」
「ふふ、リッド様はとてもファラ王女に思われて幸せでございますね」
彼女の言葉にディアナが頷きながら答え、笑みを浮かべている。
一連のやり取りを見聞きしているカペラも、言葉は発せずとも少しだけ頬を緩ませているようだ。
その中で僕だけが、ファラの笑みの意図が分らずにきょとんとするのであった。
◇
やがて神殿の中を先に進むと、そこには父上やメルに加えてエリアス王を含めた王族の方達が揃っていた。
その中、エリアス王が僕に気付いて声を響かせる。
「おお、婿殿。待っていたぞ」
「エリアス陛下、お待たせして申し訳ございません。父上、それに皆様もこちらに来ておられたんですね」
この場に集まっていた方達に向かって声を掛けると、代表するように父上が頷いた。
「うむ。『神前式』は私もさすがに初めてなのでな。バルディア家としては私とメルが参列する予定だ」
「えへへ、にいさま。わたしもちかくでみているからね」
嬉しそうに微笑むメルの頭を撫でながら、僕は頷いた。
「うん、ちゃんと見て母上にも伝えてね」
「はーい」
彼女が返事をすると、やり取りを見ていたエリアス王が声を再度響かせる。
「婿殿、そろそろ『神前式』の段取りを確認していこうと思うが良いかな」
「承知しました、エリアス陛下」
この後、レナルーテにおける『神社』において『神前式』の段取り確認を行うことになった。
本丸御殿と神社での段取りをまとめると、神社で神前式を行った後、本丸御殿で披露宴という流れのようだ。
神社で行う神前式においては、レナルーテからは王族に近い関係者。
そして、バルディア家の関係者としては、父上の護衛としてやってきたクロス。
メルや僕に近い者としてディアナ、クロス、ダナエが護衛を兼ねて参列する予定となっている。
エリアス王を含めた王族も参加するのは少し驚いたけど、段取りをしていく中で父上が説明をしてくれた。
今回の『華燭の典』は、レナルーテ国内においてバルディア家とレナルーテ王族の繋がりをより強固であることを有力華族見せる為、政の意味合いも強いそうだ。
父上はエリアス王にまた貸が出来た、と少し意地の悪そうな笑みを浮かべながら僕にだけ聞こえる小声を発する。
「政の件については、まだ深く考えなくて良い。それよりお前は、妻となるファラ王女に恥を欠かすことの無いようにな」
そう言うと父上がスッと優しい眼差しをファラに向けたので、僕もそれにつられて彼女に視線を移す。
その時、ファラが僕の視線に気付いたらしくニコリと微笑んだ。
彼女と目が合い、ドキッと鼓動を高まるのを感じつつ、父上に視線を戻した僕は笑みを浮かべて答えた。
「承知しました、父上」
こうして、『華燭の典』で行う神前式と披露宴の段取り確認を本日、翌日と行うのであった。
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閲覧には注意してください。
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