第5話 僕は記憶に何をされたんだ
明かりを消して、ベッドで寝返りを打って、赤佐は今日の出来事について考えていた。
家に帰ってきたときの態度を母親に不審がられたし、父親にも似たような心配をされたが、怪盗に襲われたなどとはとても言えなかった。
普段からアニメの観すぎ、ゲームのやりすぎと言ってばかりで、何でもかんでもアニメやゲームのせいで片付けようとする親に、いざというときの相談なんかできるものか。
(あいつらは誰のおかげでのうのうと生きてられてると思ってるんだ!
何をしてきたって?)
……記憶に靄がかかってる。
怪盗は何て言っていた?
高校受験をひかえた夏の終わりに……
(怪盗が言っていたセリザワレインって名前……
やっぱり思い出せない……
本当にそんなやついたのか……?)
先ほど怪盗と知り合いみたいに話していたやつのことは覚えている。
(サッカー部の
何であいつが……?)
中学時代のクラスメイトの連絡先を、赤佐はスマホに残していない。
卒業アルバムもどこへやったか覚えていない。
中学の三年間での良い思い出は、絵がうまくなったことぐらいしかない。
(クラスにどんなやつがいた?
どんな嫌なことを言われた?
どんな嫌なことをされた?
中学のときのクラスには、どんな嫌なやつがいた?)
あいつもあいつもあいつも覚えてる。
(
大嫌いだったやつらの姿ばかり頭に浮かんでくる。
(それ以外に誰がいた?)
クラスの中心だったのは、サッカー部のエースの牛谷と、牛谷に二人セットみたいに張りついていた手品研究会のあいつ……
違う。本当の中心はあいつらじゃない。
あいつらの視線の先にいたのは……
(待てよ? 手品研究会?
どんな顔をしていた!? どんな名前だった!?)
目立っているやつだった。
うらやましくて、こっそり見てた。
「うぐっ!?」
強烈な頭痛が赤佐を襲った。
脳ミソを掻き回されるような目眩。
(何コレ!?
もだえ、ベッドから転げ落ち、まぶたの裏に光が走る。
まぶたに怪盗の顔が映った。
ふざけたマスクの下にあるのは、間違いなく手品研究会のあいつの顔だ。
(あいつは……あいつの名前は……)
頭を抱えてうずくまる。
乱れきった呼吸が少しずつ落ち着いていく。
「瀬布川……灯夜……」
そうだ。あいつだ。
昨日転校してきて初めて出会ったはずのあいつだ。
「どうして……」
顔も名前もそのままなのに、どうしてわからなかったんだ……
「うぐあああああっ!!」
頭を掻きむしる。
指にドロリとしたものが付着した。
一瞬、血かと思ったが、血よりもずっとネバネバしていて、蓄光塗料のような緑色に光っている。
すぐにわかった。
これは怪盗がつけていたマスカレード・マスクの素材と同じものだと。
これが赤佐の頭の中に入り込んで、瀬布川についての記憶を赤佐から隠していたのだ。
(同じことがこれよりももっと深い力で、あの子についての記憶にも……怪盗のマスクよりもずっと強い力を操るヤツによって……
あの子……誰だ……
クラスで浮いていた
誰に対しても優しくて、だからこそ
決してカン違いして好きになったりしてはいけない、ただ誰にでも優しいってだけのあの子……)
頭痛がどんどんひどくなる。
赤佐の意識が体から離れ、別のやつが見ている夢の中に取り込まれていく……
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