第3話 僕の能力の理由は何だ

 さぁ、夜が明ける。

 転校生が現れてから二日目の朝が来た。

 今朝は夢の中でまでちょっかいを出すのはやめておいたよ。

 今朝の悪夢はキミが自力で見たものさ。


 転校生はあっという間にクラスの人気ものになった。

 これは夢じゃなく真実さ。

 その流れで、クラスの嫌な奴らがキミのスケッチブックを取り上げて、転校生のスケッチブックと並べてさらし、キミと転校生の違いをクラス中に見せつけた。

 もちろん“クラス中”にはキミの片思いの伊岸サンも含まれる。

 これも悪夢のようだが本当にあった出来事だ。


 夢であってくれとどんなに祈っても届かなかった。

 そうさ、祈りは届かないんだ。

 あのときだって……ボクはあんなに祈ったのに……


 んんっ、いや、失礼。こんなことをキミに言っても何が何やらわからないんだったね。

 そうさ。苦しいのはキミじゃないんだ……

 それでもキミがそうやって、しょぼくれた顔をしてくれていると、ボクとしては気が楽になる。

 ボクがしていることは正しいんだって、罪悪感なんか持たなくていいんだって、思わせてくれて、ありがとう……

 赤佐太直クン……かつての……仲間……




 そして早くも授業風景。

 赤佐太直は居眠りをしている。

 朝に勝手に見た悪夢のせいで寝不足なのに、こっちの夢ではボクにわさと悪夢を見せられて、さぞや最悪な気分だろうね。


 キミの想いは伊岸サンには届かない。

 キミのヒロインに、キミごときが釣り合うとでも?

 初恋のコを見捨てたくせに!

 ああ、またその顔だ。

 何のことかわからないって顔。

 どいつもこいつも……もう飽きたよ。


 赤佐!! 見えるか!? この景色がッ!!

 赤黒い空が! 紫の大地が!

 これはただのイリュージョン。

 ボクがキミに見せている夢に過ぎない。

 だけど去年の夏の終わり、キミは確かにここにいたんだよ!

 受験を前にクラスの誰もが、どこへでもいいから逃げ出したいって思いに囚われていたときに、クラスごとこの世界に転移したんだよ!


 ボクたちはこの世界のか弱き人間たちを守るため、それをやり遂げて元の世界に戻るために魔族と戦った。

 そして一人を除く全員が地球に帰ってきた。

 ねえ、赤佐クン。

 キミの記憶が消されていても、キミの両手は魔族と呼ばれた・・・・モノどもの紛れもなく赤い血で汚れているんだよ!




 ハッと目を覚ます。

「落としたよ」

 赤佐の鼻先に、瀬布川がスケッチブックを突きつけていた。

「昨日は災難だったね」

「…………」

 瀬布川の声はあくまでもやさしく穏やかだ。

 夢で見た怪盗と声質が似ているのは赤佐が瀬布川を意識しているからそういう夢を見たに過ぎなくて、学生服のさわやかな少年の正体が不気味なマスクの怪盗だなんて、それこそキモいバカの考えることだ。

「伊岸サンにはあんな形じゃなく、自分から見せたかったんでしょ?」

「…………(コクッ)」

「もっと早く見せておけば、あんなことにはならなかったのに」

「……もっと……うまくなってから……」

「昨日よりも下手になってるよ」

「それはッ! ……たまたま……」

「もしかして、ボクが急に伊岸サンと仲良くなったから下手になっちゃったのかな?」


 周囲から巻き起こった笑いは、チャイムの音に打ち切られた。

 ねえ赤佐クン、自分でもわかっているんだろ?

 たった一日でここまで下手になるなんて、いくらなんでも不自然だって。

 ここまで不自然なのは……ふと気がついたら信じられないくらいうまくなっていた、夏の終わりのあの日以来だって。

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