波をつくる
義仁雄二
第1話
錆びれた海岸だったこの場所が、沢山のサーファーで賑わっていた。どうやらサーファー達の中で波が良いと評判になっているらしかった。
毎日この海に来ているが評判になっているのではと気付いたのはつい最近だが、その評判の立役者ともいえるのがヒトミという名前の少女だというのは想像に難くない。それほど彼女が波に乗っている姿は魅力的だからだ。
彼女は幼いころから、父親がサーフィンするのについて来ていた。
ヒトミは楽しそうに父親がサーフィンしているところを見ていた。ビーチで遊ばず飽きもせず、ずっとジッと。そんな彼女がサーフィンを始めたのは必然だったはずだ。
サーフィンを始めたばかりの彼女は、もちろんのこと波にどころか、ボードにも上手く乗れなかった。何度もひっくり返りかえった。それでも彼女は楽しそうに毎日この海に来て練習していたが、彼女の上達は決して早くなかった。
一目で気づいていた、彼女にはサーフィンの才能というものがないことには。
継続することは難しい。才能がないのならなおさらのはずだ。
だからいつかは止めるだろうと、そう思っていたが彼女は止めなかった
一年経っても、五年経ってもやめなかった。
そもそもサーフィンは自然を相手にするスポーツだ。天候や場所に大きく作用される。毎日環境は変わる。同じ日なんて一度もないし、いい波が来るとは限らない。
それなのに彼女は毎日やって来た。雨の日だろうか、雪が降っていようが関係なく。ワクワクした表情をして、待ちきれないとばかりに走って海に入って行った。
そんな全身全霊で挑む彼女を見ていると、本当に好きなんだという事が伝わってくる。
いつの間にか彼女を目で追っていた。少しずつ少しずつ、上手くなっていくのを見るのは楽しかった。何より波に乗る彼女は綺麗だった。上手に技で来た時の嬉しそうな彼女を美しいと思った。
そんな彼女を何度も見たいと思った。だから密かに彼女の手助けをしていた。感謝されたいとは微塵も思っていない。そもそも彼女に自分という余分なモノは必要ない。ただ彼女が楽しそうに波に乗る様子を見るのが好きなエゴでしかないのだから。
ある日、彼女は同い年ぐらいの子と一緒にやって来た。おそらく友達だと思われるその子は全力でサーフィンを楽しんでいるヒトミを撮影しだした。
ヒトミはパドリングをして海を掻き、いい波がくるだろうポジションを探す。
私はどうせなら彼女が一番魅力に映るようにと大きな波をつくった。
そして彼女は期待に答えるように、波に乗り一度も成功したことがなかったエルロロ――波の反発を利用して空中で一回転する大技――を決めた。
大技を決めた時の彼女はとっても輝いていた。
それからというもの海の化身である私は彼女に、波をつくって提供している。
波をつくる 義仁雄二 @04jaw8
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