俺の推しの中の人が結婚したら俺は死ぬ!

Tonny Mandalvic

自分の推しの結婚という人生最大の罰ゲーム

 結婚とは、何か。

 生涯の伴侶の契約をしたことを意味することである。

 他人の結婚とは何か。

 自分以外の他者が生涯の伴侶の契約を手に入れたことである。

 友人の結婚とは何か。

 自身の友達が生涯の伴侶を得た祝福すべき出来事である。

 異性の友人の結婚とは何か。

 自身の異性の友人が結婚したことにより、自分と結婚することがなくなったことを意味する。

(性的志向の異なる方には申し訳ないが、現在の一般論的な書き方をさせていただく。)

 推しの結婚とは何か

 自分が愛した人間が結婚することである。

 それが自分である場合は人生最大の喜びであるが、往々にしてそれはかなわず、他人のものとなることであり、それは人生において今後を生き地獄とするものである。




 今日もくそ高校の狂った授業が終わった。

 毎日が退屈な日常である。

 それなので、うまの合う友達とくだらない話をすることしか人生に喜びは生まれない。

 今日の妄想は以下のとおりである。

「ああ、女の子が空から降ってこないかな。」

 当然ながら降ってくるわけがないし、降ってきたら地面にたたきつけられた時点で死亡しているし、直撃したら自分が死ぬのは言うまでもない。

 いつもの友人のバカ話だと思って適当に乗る。

「どんな女の子が降ってきてほしい。」

「若松優佳。」

 若松由佳とは、アニメ声の声優であり、きれいというよりかはかわいいらしい、今わが友の最大の友人である。

 当然ながら、こんなくそ田舎に彼女が現れる確率というのは天文学的に低く、またこの話の中で彼女が次の通りを超えたらパンをくわえており激突するということはあり得ないし、天文学的な確率を乗り越えたとしても、若松由佳が君を愛してくれることはないだろう。

 ネタにマジレスしても仕方がないので、ボケにかぶせるほうが面白いと思ったので続けることとする。

 思考実験だし。

「若松優佳にあったら何をする。」

「愛していると叫ぶ。」

 意外とそのようなことは恥ずかしくてできないやつのほうが多い。

「そうか、頑張れよ。」

 そんな熱を持って彼女を口説けるのならばこの場所にいるべきではないし、会えるスポットへ行くのがまず最低限の条件となる。

 そんなに人生はうまくいくはずがないだろう。

 よくてライブの観客席にいるその他大勢から脱出できればいいと思うが・・・・



 大学に行っても、若松優佳の話は止まらなかった。

 友人は若松優佳と同じ大学に行ったらしいが、一度も若松優佳にエンカウントできていないらしい。

 当然だろう。また、エンカウントしたとしてもプライベートなのだから、邪魔をするのは礼儀ではないと思う。

 就職活動をしていても、若松優佳に会えるような仕事を探していたが、結局失敗したようだ。


 田舎に帰ってきて、社会人マネーで若松優佳のライブに行く始末。

 まあ、車を買わなければ、若松優佳のライブに行きたい放題だろう。

 暇だから俺も付き合っているけど。


 そんな日々が続き、周りのやつらも結婚をする年齢となった。

 当然ながら、わが友の最推し(というかもともとKACのテーマだから推しという表現を使っているだけであって、俺は推しという表現があまり好きではない。推しという言葉自体はグループアイドルのファンの方々が一番好きな人間を選んでそれを推薦しているだけでことを意味すると思う。そのため、わが友の空想嫁と行ったほうがしっくりくるだろうし、特に2000年代にオタク活動を全盛期で行い、そのあと若干離れた人間からは、「嫁」という表現がしっくりくるだろう。まあ推しは男女またモノにも使うことができるから、それはそれで問題ないと思うが。)である若松優佳様も結婚報道が来るのではないかとおびえる時期となってきた。

 すると飲み会の席で友はこのようなことを言い始めた。

「人生つまらないから、若松優佳様が結婚したら死ぬだ。」

 吉〇三のコミックソングみたいな語尾で友はしゃべった。

「他に好きな女もいないし。」

 愛してくれる女もいないし。

 それ以前に社会人になるとすべてがどうでもよくなってきて、もうなんか異性への興味が薄まってくるような気がするが俺だけだろうか。

「でどうするんだ。」

「生きるのやめたい。」

 まあ、サラリーマンって無機質な毎日が続くだけだし、時折自分が生きている意味って何だろうなって思うことあるからな。

 こんなつまらない毎日が寿命まで続くのなんてある意味生き地獄だと思ったので、最期にやりたいことについて考えることとした。あと逆にやりたくないことも考えてみた。


 やりたいことについて友は言った。

「若松優佳様に会ってお話をさせていただくこと。」

 もう結婚したいとか言わないんだ。10年たって現実的になったね。

 逆にやりたくないことは、

「つまらない死に方。」


 まあこんなバカ話ができるのはお互い独身だからだろう。

 もうこのころにはお互い若松優佳様に彼氏がいるというのは暗黙の了解であった。

 それを踏まえてエア嫁との会話というのを泥酔してやっていた。

 一生友人とは結婚することはないだろうがな!



 そしてついにXデーがやってくる。


 ファンの皆様へ

 本日、私、若松優佳は、関係者の男性(のちに漫画原作者と発覚する)と結婚致しました。

 これからも仕事に邁進してまいりますので、これからも変わらぬ応援のほどよろしくお願いいたします。




 日本国内において、他人の夫や妻を奪い取ることは、社会的、道義的に許されないことから、この時点で恋愛シミュレーションゲームに例えるとバッドエンドということになる。

(犯罪として規定している国もある。)

 そのため、アイドル(声優)の場合、その人の演技や歌が好きだったり、結婚を覚悟したうえで応援するということをしていないファンの人たちは残念ながら離れてしまうことのほうが多い。いかんせんどうしようもないことだが。




 ファンとしてではなくガチ恋勢として若松優佳を応援していたわが友にとっては、人生において最悪の展開である。世界一攻略難易度の難しい恋愛シミュレーションゲームのバッドエンドを迎えたわが友は本当に死んでいるのかどうか確認することとした。


 まず家に行ったら遺書がなく、電気がついているのでまだ生きている様子だった。


「おはよう。どうやって死ぬ?」

 火の玉ストレートであおる。友は意気消沈しているようだった。


「痛いのが嫌だから死に方がわからない。」

「泥酔して記憶のないうちに死ねば。」

 まじめに回答をする俺も狂っている。


 大人なんだから生きたければ生きればいいし、死にたければ死ねばいい。


 意気消沈している友人とともかく最後の晩餐?にいくこととした。

 ヴィ〇〇〇〇ステーションに行くことにする。

 肉食えば元気になるだろ。

 焼肉でもいいけどめんどいからこっちにした。


 最期の会話をする。

「若松優佳本当にかわいかったんだって。」

「それはわかってる。」

「何で他人と結婚するんだって。」

 それはお前に魅力もなければ金もないからである。また、それ以前によくわからない男と結婚する女が現代社会にいるのであれば、教えてほしい。

 それを言ったら殴り合いか人生終了となるので、当然こらえる。

「そらそうよ。あと若松優佳結婚したけどこれからどうするの。」

「死ぬ。」

「どうやって。」

「さあ。」

 たいがいこういうやつは口だけである。

 口だけでなければせめて若松優佳に会っているかその近くにいるだろう。

 とりあえずハンバーグ食わせておいた。


 そして友人の最後の場所として、最果ての地が選ばれた。

 東のほうだったら、ある人に喧嘩を売ることができたかもしれないが、そこまでする気力はなかったらしい。ビビりが。

 僕は友人の最期を見届ける為、最果ての地に赴こうと思ったが、止めなかったといって周囲に問い詰められるのが嫌だったので、最期については生配信してもらうこととした。

 最期の葬送行進曲として若松優佳の歌のCDが流れる。

 そして友人はこの世に別れを告げるために落ちていった。



 結婚とは他者を地獄に突き落とすことにつながることについて心得なければならない。報告する際は慎重に執り行う必要がある。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

俺の推しの中の人が結婚したら俺は死ぬ! Tonny Mandalvic @Tonny-August3

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ