こわいこわいこわい、みんなこわい

「それではバンダースナッチ様、

こちら拝見させていただきます」


「しっかりと読むと良いぞ」


偉大なるバンダースナッチ様は矮小なるニンゲン如きの為に、お優しくも怖がらせない為に同じく人型に変化して御身ずからほらあ……ごほんっ、居城へと案内をしてくださいました。


はっ!

安易な人型変化は死亡フラグだぜっ!


いいえ、そんなことはございませんでした。

どうやら人型は慣れてはおらぬご様子。

少し力み過ぎることがあり、道中、少々荒れてございます。

そもそも人型でも二メートルはゆうに超えています。

なお、とてもご立派な角、牙、爪、尻尾、鱗なども一部備えていらっしゃいます。


もうやだ。


居城とされた洞穴はかなり涼しく、案内された玄室には様々なものが丁寧に並べられておりました。

その片隅にある革製の巻物と見るからに魔力がこもった二通の便箋を代読、翻訳せよとのことです。

はい、一生懸命務めさせていただきます。

……身代わり系のアイテム持ってないのでどうか呪われませんように。


まずは皮の巻物から。


◇◇◇


頬黒具足虫の真っ白ソテー

ドードーバードン海峡や不思議の国のそこら辺の池や沼の底にいるローリーポリ見たいなのを捕まえて、バンスナちゃんに睨みつけてもらうの。ちゃんと白くなったらてきぱきゆでゆで、ぐにゃりとしたらホワイトペパーをミルで10回挽いたらパンくずだらけのバターを鍋に挿してカリカリするまでしゅわしゅわ火にかけレバー!

バンスナちゃんはこれでいいみたいだけど、ぜったいふぉあぐらろぁの方が美味しいわ。




酵母塗れのウサギ肉

私は食べたくない。

おまぬけさんの白か黒のうさぎを後ろ足を持って捕まえてワインの瓶底のふわふわの酵母の死骸共に漬け込んで動かなくなったら完成よ。

可愛い顔して食べるバンスナちゃんはかわいいけど、なにかべつのものはないのかしら。


◇◇◇


えーっと。


「ホホグログソクムシと兎肉の調理法が書かれてますね。お好きなので?」


「おぉ。アリスが居なくなってから食べてないなぁ、あれは実に美味であったぞ。」


「材料さえあればお作りしますよ。兎肉の方がいいですかねぇ。(私の精神的には)」


「なんとっ!本当か。ありがたい、ありがたいぞ。ほかの、ほかの手紙にはなんて書いてあるんだっ!」


「(手紙とは?)ええ、見ていきますね。」


◇◇◇


バンスナちゃんへ

あぁ元気にしていますか。

この手紙が読めるということは遂に文字を解したのですね。

いつになってるのかわかりませんが私は嬉しいです。

ところで頼んだ仕事はどうですか。

あなたを縛り付けてしまい申し訳ありませんが、私が生きているうちはしっかりお願いしますね。

また会いに行きます。

あなたの唯一の友、アリス


◇◇◇


あれれーっ?

おっかしいぞぉ〜。


どうしてこんな爽やかな文字列にこんな魔力が宿っているんだろうなぁ。

きっとバンダースナッチ様の魔力か何かで……

やめて、やめて!

勝手に周囲に零れた魔力啜らないで。

私、見たくないですから!


◇◇◇


可愛い可哀想な私の駄目犬。

あぁアナタを飼いたいおなかいっぱいにしたいペコペコにしたい過呼吸になるまで笑わせたいシワシワでぶちゃいくになるまで泣かせたい永久に愛して愛でて虐めて孕ませて穿いて血の一滴まで啜り貪り食べてあ・げ・る♪


◇◇◇


無言を貫き、次の便箋に目を通す。


◇◇◇


燻り狂えるバンダースナッチについてこちらでわかったことを送ります。

やつは最近流炎の鋼鉄鎧がらくたとその主人たる灰被りの戦姫シンデレラと手を組んだようです。

森から抜け出し灰被りの城にも姿をみせています。

現在の灰の国は国土こそ小国のそれですが、それは国民の大多数を魔獣として首都以外を放棄したためです。

魔獣の領域を抜けても灰被りの隔離扉に阻まれて、敵情視察すら満足に行えません。

そして肝腎のあなたの兄ですが灰被りの力の一部を受け取ったようです。

今までより遥かに頭の出来が良くなり、吐息は毒を帯び更に臭くなったと聞きます。

そしてこちらは不確かですがフェアリーゴッドマザーと接触したと云う噂もあります。

絶対に油断しないでください、いいですね、絶対ですよ。


あなたを想う友

繧「繝ェ繧ケ繝サ繝励Ξ繧カ繝ウ繧ケ繝サ繝ェ繝�Ν

PS.赤と白の女王を打ち破りました。もうあなたを咎める人は殆どいないでしょうが、兎やハートの食べ過ぎは自戒してくださいね。


◇◇◇


手紙ってなんだと思ってるの?

まず名前どうした?

内容も中々だけど名前おかしいですよね。

魔力も先程の物とは随分異なるし本当にアリス氏の差し出したものですか?

うーむ、しかし筆跡は巻物に書かれたレシピとほぼ同一、先程の魔力変換文書だけが異なる。

最後のモノの魔力は名前から漂ってきている。


「バンダースナッチ様、この手紙たちはどのように手にしたのでしょうか?」


野獣美女を見上げながら問いかける。

思案の声を肉を食い破る鋭利な牙列の間隙から漏らせば答えが帰ってくる。


「これはアリスが置いてったものなのだ、だから我の好物のレシピと知って納得したし嬉しかったのだ。残りのふたつ、こっちはよく解らぬ言葉を絶えず垂れ流す雲が運んできたのだ。こっちはこの手紙が鳥となって飛んできたのだ。どちらにしろこの場所を知るのは我とアリスぐらいなのだ。」


となればレシピ(?)はアリス氏確定と。


「なるほど。拝見させて頂きましたがこの雲が運んで来たというこちらはもしかしたらアリス様とは異なる方からのものかもしれません。」


バンダースナッチ様は困惑、唖然、嫌疑、そして怒りへところころ表情を変えて見せた。


「この我が大切に保管していたものが、アリスからのモノでないと?

そう云ったのか、ニンゲン」


爛々と燃え盛る瞳に睨めつけられる。

こわいこわいこわい、みんなこわい。


でもアリスとやらがこのヒトを飼って犯して喰らおうとしてたら二面性所ではなくもっと恐ろしいことになる。

さぁ上手く説明できるだろうか。

失せ人探しの法はここでは使えない為、目指すはパーフェクトコミュニケーション。

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あの日落ちた穴の先 櫻城 那奈菜 @mandrake

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