ニンゲンなのだっ!

「GUUUurrRAaAaaaaaAAA――」


巨獣は確かに私を見据えて、少しだけ上半身を屈めその獣声を響かせる。

巨体の割には控えめな音声おんじょうなれど、私の体は揺られ、髪もたなびく。

饐えた臭いに加えて荒々しい魔力が吹き荒ぶ。


今までの化け物共とは異なり、荒々しくとも制御された魔力だ。

ならば望みはある、あるのだ。

魔力はコミュニケーションツールになり得るのだ!


「<仲良くしよう>」


文化が育まれた土地のモノでなければ挨拶は意味が無い。

魔力による思念伝達に言語の違いなどは関係ないが、通じ合った会話が紡げるかはまた別の話。

そして相手が本能だけで魔力を操る、知性無き獣でないことを祈る。


「GaUuurr?」


よしっ!

この反応、伝わった筈だ。

警戒はあれど、先程までの食欲を向けられる感覚は殆ど消え失せた。


「<敵対するつもりは無い>」


続けざまに自らの無害を訴え、思いつく限りの友好を求める意思を発する。


「GUuAAaarrraaaOuu?」

「<なんだぁキサマ、なんの種族だぁ?>」


思っていた以上に話が通じる予感。


「<私は人間です。私の同種はここでは珍しいかもしれない。私も迷い込んでしまい、今この場にいるのです。>」


私が伝え終わると私の匂いを嗅いでいた獣は動きを止めた。

少ししてからまた声がかけてきた。


「<ニン、ゲン。……そうだニンゲンだっ!

思い出したぞ。ニンゲンだ、ニンゲンなのだっ!>」


興奮した声に満ちる感情は納得と歓喜といったところだろうか。

嫌な感じは殆ど感じなかった為、私からも投げかける。


「<誰か人間の御人をお知りで?>」 


「〈ニンゲンは美味しいのだっ!

アリスもいい子で変な子で友となって、そして美味だったのだ!!〉」


……さて、奴さんなかなかに怪物逝かれた思考を地でいっていらっしゃるご様子。


はっはっはっ!

入学時に加入した保険はここでも適応ききますかねぇ。

泣きたいです。


「〈アリス様ですか、どのようなお人でいらっしゃたのでしょうか?〉」


それでも精神を鎮めながらなんとか会話を繋ぐ。

背中を向けたらダメな気しかしませんから。


「〈おうおう、聞きたいのかや?

良いぞ、我の家にはアリスからのプレゼントがあるのだ。連れて行ってやろう。〉」


この微妙にズレた感じ。捕食者の巣に連れ込まれる弱者。

終わりましたかね。


「〈その代わりと云ってはなんだが、アリスから手紙ももらっていてな、我には読めぬのだが、キサマ読んで内容を教えてはくれまいか?〉」


ん?

これは、ワンチャン……


「〈はいっ!よろこんで!〉」

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