第7話

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 少女は闇を駆ける。

 この暗闇は決して終わることはない。心の奥底まで蝕み続けるたちの悪い虫だ。ずっと飼い慣らしてきたくせに目を背け、肥大してもなお隠し続けてきた。白日の下にさらせば消え去ると思っていたのは自分だけだった。



 西暦2045年。技術的特異点シンギュラリティは予測通り発生して人の世は終わりを告げる。ただしそれは地球の支配者が人間から機械になることを意味しない。

 人間以上の知能を手に入れたAIが演算したのは、二度に渡る隕石の衝突による文明の消滅という未来だった。残念なことに、それは人間が導き出すよりもより正確な予測であった。


 2050年。一度目の隕石衝突。最初の五年間は懐疑的な人間が大多数を占めていた。何事も楽観視してしまい、自分だけは大丈夫だと高をくくることが人間の欠点だとAIは理解していた。だから人間に対し具体的な解決策は提示せず、彼らの危機感を煽ったのだ。

 そしてAIは来たるべき2100年の二度目の隕石衝突に向けて人類に警笛を鳴らす。


『文明を捨て、種の生存を優先すべき』


 人類が起こすべきアクションとして提示されたのは二つ。

 一つは人工プレートの着工。2050年の隕石衝突により海面が上昇したが2100年にはさらに被害は甚大となる。地表はほとんどが海に沈むことが予測されるため、人々の生活基盤を確保する必要がある、と。

 もう一つは体外受精技術の確保。気候変動、感染症蔓延などにより人口が激減されることが予期されるため、環境に適応した新人類を生み出す必要がある。それはつまり、遺伝子操作により人間を超越した能力を与えられたデザイナーベイビー、もしくはジーンリッチと呼ばれる存在を容認することだった。

 さらに僅かな希望を託し高度なAIを積んだ人工衛星を飛ばして観測するも、その予測は覆らなかった。最初からAIは正しかった。


 2100年の隕石衝突は予想以上に甚大な被害をもたらした。いや、予想というのは人類の希望的観測でAIにとっては予定調和だったのかもしれない。

 人口プレートによって多少の人類は生き残ることが出来た。密集した都会では十分な土地が確保できず海に沈み、辺境の田舎ほど土地の確保によりプレートを増設できたというのは皮肉な話だ。しかしそこに人類はいない。いるのは試験管で培養された体外受精児だ。


 生き残った人々は同じく残存された新人類ジーンリッチとともに文明のほぼ全てが洗い流されてしまったこの荒廃した世界で生き延びる。

 人々を導いたAIも今では海の底。もはや誰も彼らに助言する者はいない。まるで初めからAIの支配はここで終わりと言わんばかりに機能停止した。


 そして2115年。かつて新人類と呼ばれた存在は神様がもたらした子、神子ミコとして各地で育てられていた。



 これはとある少女ミコの物語である。

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