第5話
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<やあ、改めてこんにちは。いや、こんばんはかな?>
「あれ、相変わらず脳内に直接響かせてくるんだけど!?」
てっきり目の前の少年が代わりに喋ると思っていたところに不意打ちを食らう。本人が言ったとおり彼はカミ様の使いであってカミ様そのものではないのだ。
少女が困惑する様子を体を揺らしながら眺めている。暗闇にプリズムめいた頭髪が揺らめく様子は蛍のようだが、残念ながらこの世界で蛍は絶滅しているため少女にその例えは通じないだろう。
<君が肌身離さず持っていたそれを台座に納めることで交信を可能にしたんだ>
それ――間違いなく
<まあ、途中何度も落とされたり転がされたりして壊されそうな危機的状況もあったんだけど……あの事故のおかげでチューニングを合わせられたから結果オーライということにしておこう>
カミ様の告げる衝撃の事実に少年が声を荒げる。
「ええっ、見た目からして丁寧に扱わないとヤバいって思わなかったの!?」
「んんー、い、いや、思っ……た、思ったよ、うん」
「すごい姿勢で思いっきり目を逸らしてる……」
彼女は繊細さを海の中に投げ捨てている。
<それでも君と交信できたことが何よりも嬉しい。ああ、そうだ。君は選ばれた。瓶詰帆船に選ばれ、カミに選ばれたんだ>
「選ばれた……って、どゆこと? 私は特別でも何でもないよ。ただの――」
<――君はミコだ。その時点で君は選ばれし存在なんだよ>
少女は不思議そうな顔で天を見上げる。頭の隅っこの上の方、そこから声が響いてるような気がして。
「へぇ、君もミコなんだ。――って、ああ待てよ、そうか。僕と役割が違うんだ」
少年は歓喜の声を上げたかと思えばちょっと待てよと思案し、一人で納得しながら頷いている。
「さっきから一人で勝手に納得してるけどさ、私は全然意味がわからないんだけど」
少女は困惑と苛立ちの入り混じった声で少年に訴える。もしくは、姿の見えないカミ様に。
<君はどこから来たのか? どうして存在するのか? どこへ行くのか? もしくは有名な絵画のように『我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか』と問いかけた方が良いかな>
カミ様の問いかけは本質的であり、根源的な問いだった。理解するには少女はまだあまりに未熟だった。年齢的にも、精神的にも。
「え、意味がわかんない。もっと分かるように説明してよ」
難色を示す少女を前に、少年は少し悩んだ後に言い改める。
「じゃあ、もっとシンプルに。君は自分の役割を理解している?」
役割、と。少年は繰り返した。
「そんな小難しいことはわからないけど、私はここでじーちゃんと平穏無事に暮らしていたいだけ。誰にも邪魔されることなく、ただ静かにね」
それは少女の心からの願い。
その平和な日常が侵食されつつあることに少しずつ気付きながらも目を逸らし、まだ踏み止まれることを期待している。
灯台から伸びていた明かりは遠ざかり、暗闇が少年の姿を隠す。最後に見えた顔が笑っているように見えたのは気のせいだろうか。
「だったら君は引き返すべきだ。君が望む日常を失いたくなければね」
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