推しなんていない

愛空ゆづ

“推し活”

 最近になって身近になってきた言葉。“推し”

 推し活とは、“推し”のグッズ購入、ライブやイベントへの参加、ファンレターを書くというようなこと。

 私はこれまで何かを応援したりすることはなかった。そんな熱量を持つこと自体が難しかったのである。勿論ゲームもアニメも好きだったが、特にこのキャラが良いなどいった好みもほとんどなく、皆が好きだから話を合わせるために流し見する程度のものだった。その時見ていたアニメも今となってはほとんど覚えていない。届かないものに手を伸ばすのは愚かではないかと斜に構えていた。


 ここ最近の私はといえば、暇を持て余してインターネットの海を漂っていた。

YouTubeをダラダラと流し、Twitterを徘徊して眠るだけの腐った毎日を過ごしていた。


 ある日、私は大層な美人を見つけた。可愛い見た目でありながら仕草は美しい人だった。 彼女は人気者で、毎日ハードなスケジュールこなしているようだ。

私は頻繁に応援のメッセージを送った。


 彼女に笑ってもらえた時、私は嬉しかった。私はどんな時でも彼女の味方であり続けようと思った。しかし、今のままの私ではこの先、何の力になる事も出来ない。無謀だとしてもその為の努力を始めることにした。そうしている間、私は他の事を考えずにいられた。食生活にも気を使い、運動も始めた。退屈な毎日に光が差したような気がした。


 私は彼女が好きだと気付いたのはいつの事だったか。

 随分と昔からだった気もしてくる。私は下心で努力を続けた。すると私の周りに知らない人が増えていった。よく知らない企業への勧誘や赤の他人からの遊びの誘い。それを鬱陶しいと思ってしまう自分の醜さにも嫌気がさす。興味もない人間から好かれても気持ち悪いものなのだと思った。

 果たして私は大丈夫だろうか。こんな人間に好かれている彼女も迷惑しているのではないだろうか。


 見ているだけも幸せを感じられる。話を聞いているだけでも満たされる。こちらからのくだらないメッセージにも反応をくれる彼女にありがたく思う反面、申し訳なさも感じてしまう。


 これが“推す”という事なのだと私は思った。

 私は遠く及ばない高嶺の花を見上げて手を掲げていた。

 

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推しなんていない 愛空ゆづ @Aqua_yudu

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