至福のとき

@kozakuramomone

しらす

 私の毎月の楽しみは、給料日にたくさんの食材を買って帰り、作って食べることだ。毎日カツカツの生活を我慢できるのもこの日があるからだ。この日だけは、ちょっと贅沢しちゃうんだ! 18時になり会社を勢いよく出る。どんな食材を買おうかな。そんなことを考えながら、近くのスーパーに寄った。


 何を買うか考えながら、店内を1周しようとしたとき、店の奥の魚コーナーの棚にある、白銀に光ったしらすが目に入った。その瞬間、これしかない。そう思った。普段は、この贅沢できる日でも、しらすは常に金欠な私には少し高く、目に入らないが今日は違う。そう、今月はボーナスがあるからだ。たくさん頑張ったご褒美に買っちゃおう。でも、しらすと何を合わせよう...。卵かけご飯に合わせたらおいしそう。不意に頭によぎった、卵かけご飯。本当に合うかはわからないけど、美味しいものと美味しいものを合わせたらすごく美味しくなるに違いない!決めたとたんに、カートを勢いよく押して、無意識に卵コーナーに向かった。卵コーナーにはいつも買う激安の10個入りパックと6個しか入ってないのに、いつも買うパックより高いパックが並んでいた。濃い黄色い黄身の写真が私を読んでいる気がする。これは、もう買うしかない。そうして、カートに入れた。あとは、醤油だが、確か、会社の先輩が出張のお土産で買って来てくれた牡蠣風味の卵かけご飯専用醤油が家にあったはずだ。そうだ!醤油話買わなくていいから、アイスを買って帰ろう。いつものバニラアイスを手にしてレジに向かった。


 家に帰ると、仕事に行く前に研いでおいた米が炊きあがった音がした。帰ってきたと同時に米の炊き上がる音がすると、何とも言えない満足感にあふれる。家中に炊き立ての米の香りが充満している。この食欲をそそる香りにつられて、急いでキッチンに向かう。いつもなら、スーツを脱ぎ捨て、ベッドにダイブするが、そんなことをしている場合ではないぐらいおなかが減った。棚からどんぶりを出し、釜のふたを開ける。湯気しか見えなかった釜から真っ白でふわふわなお米が見えてくる。おなかが減っているからか、いつも以上に美味しそうに見える。お米の粒がつぶれないようにやさしくしゃもじを入れる。お米をほぐせばほぐすほど、お米の甘い香りが漂ってくる。どんぶりに入れたら、卵の卵黄だけを入れる。パッケージ通りの濃い黄色、いや、オレンジ色だ。卵白はボウルに入れ、ハンドミキサーで泡立てる。めんどくさいがこのひと手間で、何倍も美味しくなる。ふわふわのメレンゲができたら、卵黄の周りにそっとかけてあげる。これだけでも美味しいのに、今日はさらにしらすまであるなんて、たまらなさすぎる。たくさんのしらすをメレンゲの上にのせる。そして、醤油をかけ、刻みのりをかけて完成。ふわふわしているからふわふわ丼と名付けよう。そんなネーミングセンスのなさは今に始まったことではないと心の中で思いつつ、冷え切った缶ビール1本とどんぶりを持ち、机に並べる。やっとの思いで椅子に座る。

『いただきます。』


 ―― 缶ビールを開けた音が家に響き渡る。グイっと一飲みすると、一気に疲れが吹き飛ぶ。山盛りのメレンゲとしらすの真ん中にいまにもとろけそうな黄身。スプーンで一思いに黄身を割る。とろけた黄身をふわふわなしらす、メレンゲ、お米に絡ませる。黄身も濃厚で具材によく絡む。普段食べる卵も美味しいけどこの卵は、黄身の濃厚さか、実際のところは分からないけど、なんだかすごく美味しい。また、牡蠣風味の醤油がいい感じに口の中に広がる。熱々のお米でやけどしそうになった口には、冷たいビールがオアシスのように感じる。しらすを選んでよかった。美味しすぎる。美味しすぎる。手を止められない。どんどん食べるペースが上がっていく。それと同時にビールも減っていく。やっぱり、美味しいものと美味しいものを合わせると美味しいものができるのは本当だった!と、うれしくなり、より手が止められない。あんなに山盛りによそったはずのどんぶりの中には気づいたら、もう、3分の1ぐらいしか残っていなかった。缶ビールもすっかりなくなっていた。冷蔵庫からもう1本取り出し、またグイっと1口飲む。何回飲んでも、開けたての1口目が1番美味しい気がする。ビールを置き、どんぶりを持つ。さっき以上のペースで勢いよく流し込んでいく。あっという間にどんぶりの中には米1粒もなくなっていた。自分でもびっくりしたが、家に帰ってきてまだ15分もたっていなかった。そのぐらい夢中になっていたんだ。すごく美味しかったな。

 この勢いでアイスも食べちゃおう。私のアイスの食べ方はバニラアイスにコーヒーをかけて食べるのだ。もともと、父がしていたのを真似してみたことがきっかけ。コーヒーにこだわる私は、豆を挽くところから始まる。豆を挽き、蒸らし、お湯を入れる。この工程が楽しくてたまらない。そして、熱々のコーヒーを皿に乗せたバニラアイスにたっぷりかける。甘いバニラアイスと深みのあるコーヒーの相性は抜群でやめられなくなってしまう。アイスが溶ける前もすごく美味しいが、少し溶けてきたときが私的に、最高に美味しいときだ。そのタイミングを逃さないように、タイミングを見計らい、一気に飲むように食べてしまった。

 『ごちそうさまでした。』


 今回のメニューはここ最近で、1番満足できた気がする。また来月の給料日まで頑張ろう。来月はどんな美味しいものを食べようかな。

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