器用な魔法使い

Ray

器用な魔法使い

(ウィンドブレード......)




 ドサッ...... ゴロリ......


 バタッ......




(セカンドアーム...... スペースセル......)




 うっそうとした森の中、首の落ちたボアが宙に浮いている。

断面からは血が噴き出しているが、それらは地面を汚すことなく、真っ暗な穴の中に吸い込まれている。

そのそばには、こげ茶マントを羽織った子供がいた。

子供が地面に転がっているボアの首に手を置くと、首は一瞬で消えた。

子供が手をかざすと、周りに飛び散っていた血は跡形もなく消滅した。


 数分後、ボアから出てくる血が無くなると、子供はボアに近づいていき、触れる。

首と同じように、一瞬で消えていった。




「よし、終了」


 子供はそう呟き、かぶっていたフードを取る。

首を振り、髪の毛を整えた。

少し長めの黒髪、黒目、身長140cm少しの男の子。

ルイ、だ。

ルイは深く深呼吸した後、フードをかぶり直し、走り出す。

深い木々の間を、目にも止まらぬ速さで走り抜ける。




(スペースセル......)


 食べられる植物、果実を見つけたら、空間魔法で収納していく。

そして、食べられる動物を見つけた場合、先ほどのボアと同じように血抜きをし、これもまた空間魔法で収納する。






 森で狩りを始めて5時間余り。

ルイは狩りをやめ、森から出てきた。

そして町に向かって歩き出す。

城壁で囲まれた小都市アメイルに、ルイの家はある。




「ただいまー」


 ルイは椅子に座り、空間魔法でお茶の入ったコップを取り出す。

それを飲んでいると、隣の部屋から青年が出てきた。


「おかえりー、ルイ」

「ただいま、シュン。

 今日は仕事じゃなかったの?」


 青年の名前はシュン。

黒髪黒目の好青年で、ルイのいとこだ。


「先輩が明日用事あるみたいで、明日休みの俺と変わってきたんだ。

 それより、今日の狩りはどうだった?」

「今日も収穫がいっぱいだよ。

 マルバードにパマがいっぱい、アメイルボアもとれたよ。」


 ルイはそう言って、空間魔法で出したパマなどを机の上に並べる。


「おー。今日はごちそうだな。」

「今日は僕が食事当番だね。

 何作ろうかな」

「ぜひとも、ボア肉のステーキでお願いします」

「シュンは本当にお肉が大好きだね。

 見た目詐欺だよ。

 ファンの子たち、これ知ったらがっかりするだろうな。」

「正真正銘の見た目詐欺をお前だぞ、ルイ。

 こんな見た目でもう成人してるとか、全くわからないからな。

 そのくせ、魔法は宮廷魔導師並み。

 お前こそが The 見た目詐欺 さ」

「はいはい。

 今日の夕食はマルバードのパマ煮にしようっと」

「えー、許してくれよー、ルイ―。

 謝るから―」

「別にいいじゃん。

 パマ煮、おいしいじゃん。

 パマが嫌いってわけでもないし」

「今日はステーキが食べたい気分なんだよー」

「ステーキはまた明日、自分で作ってね」


 すがるシュンに構わず、ルイは台所に立つ。

今は16時。

夕食準備の時間だ。




 まずはマルバードを空間魔法で取り出し、解体する。

羽毛はすでにむしりとってある。

もも肉以外は収納し、もも肉は切って鍋の中に入れる。

水を入れ、蓋をして火にかける。


「ハードマテリアル...... ビックプレッシャー......」


 錬金魔法で鍋を硬化し、重魔法で圧力をかける。

圧力なべを再現した。

マルバードの肉はとても固いことで有名だが、この方法を使うと肉は柔らかくなる。


「ホント、ルイの魔法って、すごいな」

「そう? 上級魔法とかは使ってないけど」


 肉の調理がすむまで、しばらく休憩だ。

ルイはエプロンを外し、椅子に座りながら言う。


「器用、ってことさ。

 宮廷魔導師でさえ出来ないぞ。

 属性の異なる複数魔法の同時作動なんて。

 しかも長時間作用。

 よくMP持つな」

「もともとMPだけは多いからね。

 少し無理したら簡単にできるよ」

「はぁー。

 お前の言う 少し は、凡人から見たらとてつもないものなんだぜ。

 そういう常識は持っとけよ」

「非凡人のシュンに言われてもなー。

 シュンの魔法も普通じゃないんだからね。

 まずは自分のふりを直さなきゃ」

「うっ......」


 ルイもシュンも、アメイルの中で5本指に入るほどの魔法使いだ。

その魔法能力を駆使し、二人は冒険者として活躍している。

ルイは全属性の魔法が使え、威力、作用時間などの調整が得意。

シュンは高い身体能力も併せ持っており、魔法をこめた剣の能力はずば抜けている。


「全属性の魔法使いなんて、めったにいるもんじゃないのに。

 宮廷魔導師団に入れば給料もいっぱいで、もっと豊かな暮らしができるぞ」

「うーん。

 これはぼくの持論だけど、その人にとって幸せとは、お金持ちだということじゃないと思うんだ。

 人それぞれ幸せの形があって、僕はこの暮らしが一番幸せだよ。

 シュンと一緒に冒険者をやっている暮らしが」

「ははは。

 うれしいじゃないか。」

「もう、頭なでるのやめて。

 一応、僕のほうが2カ月誕生日早いんだからね。

 年上なんだからね」

「俺は肉を食べてる時が一番幸せだなー」

「もうっ」




 1時間ほどたち、ルイは料理を再開する。

パマのヘタを取り、くし切りにする。

鍋に数日前に作ったパマジュースと切ったパマを入れ、弱火で煮詰める。

次はソニを取り出し、


「ウォーターゴーグル......」


 水魔法で作ったゴーグルで顔を覆ってから、ソニを薄切りにする。

ソニは切ると汁がはね、目に入ると涙が出てくる。

この魔法を使うと、それが予防できるのだ。

とっても便利な魔法である。


「おいっ。

 急にソニを切り出すのはやめてくれー」


 涙目にならながら、シュンもウォーターゴーグルをつける。

ソニの涙目攻撃の有効範囲は広いため、少し離れたシュンにもかかる。


 パマ、ソニの他に、サメズなどのキノコなども用意し、パマと一緒に煮込む。

煮込んでいた肉も入れた。

野菜や肉のだしがおいしいので、調味料は最小限だ。






「「いただきます」」


 出来上がった マルバードのパマ煮 は、とても美味しそうな匂いを家の中に広げた。


「おいしいな、とっても。

 マルバードも柔らかくなってるし、何よりパマがとってもおいしい」

「火を通すとパマは甘くなるからね。

 これがとてもおいしいんだ」


 二人とも、スプーンを止めず、おいしそうにパマ煮を食べる。


「しあわせだなぁ」


 ルイは幸せそうに笑った。

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器用な魔法使い Ray @yuyamidarkness

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