第186話 うわさ

吉岡さん(27)は小学6年生のある日


体育の授業中、急に立ちくらみがして倒れ、すぐに立ち上がりはしたが保健室に行くよう先生に言われた


保健室の女先生は吉岡さんを良く知っており


「体育が好きで学校に来てるような君が立ちくらみなんて」と笑っていたが


診察後「大したことはなさそうだけど陽の光に当てられたかもしれないから少し安静にしてなさい」とベッドに寝かされた


女先生の言うとおり、体育と給食だけが楽しみの健康優良児だった吉岡さんは


まだ3時間目だし、給食までには教室に戻れるだろうと目を瞑った


・・・いつの間にかウトウトしていたようだ


保健室の中で大人の男性の話し声が聞こえる


「この子か?」


誰が誰に向けて言ってるのか分からないが、この子というのは自分のことらしい


「よし。じゃあ今日の大きいおかずの肉。あそこに寝てるあれ、使って」


吉岡さんは一瞬、話が理解できなかったが


寝ている自分に2人、近付いてくる気配を感じる


えっ、肉って、僕?!


ゾッとした吉岡さんは飛び起きようとするが、全く身動きできないことに気付いた


どうやら体が縛られているみたいだ


そして何故か目も開かず、声も出ない


頭の中では「助けて助けて!!」と必死に叫び続けているのだが。


そのうち上半身と足元を抱えられ、ベッドから運び出された吉岡さん


いやだよ!やめてよ!離してよ!


叫びたいが声にならない

体もピクリと動かない


どうして保健の先生は僕を助けてくてないの?!


ガラガラガラと保健室の戸の開く音


うわぁぁぁぁ!!

うわぁぁぁぁぁぁ〜〜〜!!!


そこで目が覚めた


「どうしたの?!」


飛び起きた吉岡さんに驚いた女先生がこちらを見ている


気付けば汗びっしょりだ


「良く寝てたけど、悪い夢でも見た?」


「先生、有難うございます。僕もう大丈夫です」


「そう?じゃあ無理しないで。給食食べて午後も頑張りなさい」


吉岡さんは教室に戻る途中、給食室に寄った


今日の大きいおかずは・・・大好物の「豚肉のケチャップ炒め」だ


だがその日


吉岡さんはお腹の調子が悪いと言って大きいおかずを食べなかった


クラスの皆からは、吉岡が大きいおかずを食べないなんて何か悪いことが起きるんじゃないかと笑われた


そして翌日以降、特に悪いことは起こらなかった


だがその週末、帰りの時間


【学校からお家の方へ】と配られたA4のお詫びの文面を読んで「あっ!」と声を上げた


学校給食用に食材を卸していた食品会社の1社に、「偽装」が発覚したとのことだった


後に分かったことだが、偽装などと聞こえは緩いが、実際には廃棄すべき病死肉を食用に回すなどの手口も使っていたらしい


そして直近でその会社の卸した豚肉を使って給食に提供されたのが、あの日の「豚肉のケチャップ炒め」だった


「ちょうどそのころ、世界中で子供たちが攫われ、病気の金持ちの年寄りのために、その子供たちの臓器が高値で売買されていると。臓器を抜かれた子供の体は食用に回されると。そんな話が僕らの間で広まっていて。だから保健室であんな夢を見たのかも知れないけど、それと偽装発覚のタイミングが良すぎて。一時期、母親に『この肉、本当に豚?本当に鷄?』ってしつこく聞いて、『ちゃんとしたところで買ってます!』ってこっ酷く怒られました笑」

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