第182話 閉店後
ホームセンターに勤めるYさん(43)はその日、閉店後に1人残って品出しをしていた
23時40分。
売り場の奥でキューッ、キュキューッと何かの擦れるような音がして手を止める
不気味さを感じながらYさんは、音のなる方へと向かう
キュキューッ、キューッと断続的に音がするのは、最左列の陳列棚の向こうだ
Yさんは恐る恐る、陳列棚の影から音の鳴る方向を覗く
そこは売り場の一角に設けられたお遊戯コーナーで、子供用の小さく短い滑り台があるのだが
そこで8歳くらいの男の子が遊んでいる
Yさんはギョッとして全身から血の気が引いた
もう閉店から4時間弱、経っている
もちろん売り場に客が残っているわけがない
恐怖で全身が硬直して身動きできないYさんは、ただジーッと男の子を見ている
その、白と青の横ジマの半袖を着た男の子は
よほど滑り台が気に入ったのか、狂ったように滑っては裏に回り・また階段を上って滑り降りる、を繰り返す
その度にキューッ、キュキューッと滑り台が鳴る
回る滑車が止まらないハムスターのようだ
その異様な光景にYさんは、さらに恐怖が増した
ところがそのうち、あまりにも慌てて滑ろうとしたからか
男の子が滑り台の真ん中で足を引っ掛け、転げるように落ちてしまった
「いたい〜!いたいぃぃ〜!うわぁぁーーん!!」
男の子は泣き始める
泣き声を聞いてYさんは混乱した
今置かれている状況はあまりにも異様なのに
転んで泣いている男の子に声をかけなきゃ、と思ったのだ
Yさんはふらふらと男の子に近付いていく
「・・・大丈夫?ボク、大丈夫?」
声をかけながら、男の子との距離があと3メートルと近付いた時
【パッ】
「パッ」という擬音がしっくりくるほど一瞬にして男の子が消えた
当然、泣き声も消える
初めからそこに誰もいなかったかのような静けさに戻る
呆然として滑り台を眺めるYさん
頭が真っ白になり突っ立っていたYさんだったが、ふと我に返った
そうだ監視カメラ!
Yさんは急いでモニタールームに向かう
売り場に8台設置されたカメラ
モニターを見ると、うち1台が丁度お遊戯コーナーを向いている
よし!
Yさんは、はやる気持ちを抑えながらカメラの記録データを数分前にセットし、再生ボタンを押した
「・・・えっ?!」
Yさんは愕然とした
子供用の滑り台にYさんが、窮屈そうにしながら何度も何度も滑っては登り・滑っては登りを繰り返している
そして何度目かの滑るタイミングで足が引っ掛かりYさんは転げ落ちる
「いたい〜!いたいぃぃ〜!うわぁぁーーん!!」
子供のように泣き叫ぶYさん
ところがYさんは急に泣き止むとスッと立ち上がり
慌ててこのモニタールームに向かおうとするところで、画面から消えた
誰にも信じてもらえないと苦笑いするYさんの身にこの時、何が起こっていたのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます