第177話 二度と御免

少々物騒ですが、若い頃の話として御容赦ください


23の頃の話だ


大阪の泉大津で、協業の40代社長Kさんと小料理屋のカウンターで飲んでいた


このK社長もなかなかのヤンチャ上がりで、当時はしょっちゅうお供していた


さて、入口から数えて4席目に社長、その奥に俺が座っている


他に客はいない


18時を回ったころ、ガラガラと引き戸が開いて50代の男が入ってきた


カウンターの社長に気付くなり


「お前なんやこらぁ!なにをのうのうと飲んどるんじゃあ!!」


いきなり喰ってかかってきた


「飲んどったら悪いんか?」社長が睨みつける


「こっのクソガキ・・・逃げんなよ!そこ居れよ!!」


そう叫んで男は去って行く


大将「社長、まずいんとちゃう?」


K社長「かまへん。あんなカス放っとけ」


この辺りは社長の地元だ


あの男と社長の間に何があるのかは知らないが


俺は兄貴分のような存在の社長の隣でいきり立っている


「社長、言うてくれたら俺、やってきますよ」


「アホか、いらんいらん笑」


そんなこんなで10分ほど経った頃


再びガラガラガラッと扉が開き、先ほどの男が顔を出した


「おうK、逃げんと居ったんやのう。お前、今日で終わりじゃあ!!」


店内に入ってきた男は日本刀を持っている


社長・俺「うわっ?!」


「あんた止めろ!そんな!危ない!!」大将が叫ぶ


K社長と俺は慌てて席を立つ


K社長「大将!渡せ!早よ渡さんか!」


カウンター越し、厨房に手を伸ばす


俺は包丁を渡せと言うたんやなと気付いたが


テンパった大将は何を言われているのかが理解できずオロオロしている


「死んだらんかぁ!K!!」


男が刀を振り下ろす


逃げ場のないK社長が咄嗟に左腕で自分の顔を庇う


「ぐあっ!!痛った?!」


振り下ろされた刀がスーツ越しにK社長の二の腕を切り付け、血が飛ぶ


「早よ死ねボケ!!」再び男が刀を振りおろす


「ぐあっ!このカスが!!おいT!早よどないかせえ!刀奪え!!聞いとんのかT!!」


顔にも裂傷を負った血だらけのK社長が叫ぶ


どないかせえと言われても、俺もテンパっている


「大将、鍋!鍋!!」


厨房に回り、そこらにある調理器具を物色する


フライパンを2つ強引に掴み、男に投げつける


もうあとは何を投げ、どうしたか覚えていないが、包丁だけは投げたらあかんと思った


そのうち卵焼き器かなにかが男の顔に当たり、怯んで体を丸くしたところをK社長と2人で取り押さえた


「このクソボケェ!カスがあ!!」


K社長が馬乗りになって男を殴っているところに警察がきて引き離される


男は取り押さえられ、K社長と俺は救急車に乗せられた


というか


俺は何も被害を被ってないのに何故乗せられたのか、判っていなかった


10分ほどで病院に着き、K社長と別々の治療室に連れて行かれる


その頃からようやく痛みが戻ってきた


アドレナリンが出ている間は気付いていなかったのだが


いつの間にか俺も切られていたらしい


左鎖骨から胸にかけて、深さ数ミリの裂傷が15センチほど付いていた


胸の一部を12針縫う羽目になり、完治には1ヶ月を要した


もしあの時、首を切られていたらどうなっていたのだろう


冷静になって考えると寒気がした

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