第176話 無関係でもなさそうな男

怪談好きのHさん(45)


夜、乗り合わせたタクシーの運転手が気さくに話しかけてくるので


「何か怖い話、ないですか?」と訊ねてみた


「あっ、そういうのたまに聞かれるのですが、私まったく知らなくて。お客様はかなりお詳しそうですね!」


「ふふ。私が死んだの、さっきの橋の下」


「えっ?死ん・・・今、どちらが話されました?」


「どちら?」


「男性の方?女性の方?」


「私、男ですが笑」


「えっ?あっ?」


しばしの沈黙


Hさん「あ、私がつまらないこと言っちゃったから、運転手さんも無理にノッてもらって笑」


「あっ、いえ・・・」


そこから運転手はピタッと無口になり、目的地まで変な空気になってしまった


たまにバックミラー越しに目が合う


目的地に着き、支払いを終え、車を降りた


23時過ぎ

人通りのない生活道路だ


タクシーは発進することなく、ハザードを点けたまま停車している


そのうち背後が静かになったので振り向くと


タクシーのエンジンが切られ、ライトが消えている


仮眠でもするのだろうか?


翌朝7時。


昨日の格好のまま住宅街の一角から出てきたHさんは、通りの先に昨晩のタクシーが止まったままなことに気付いた


近付いてみると、朝と夜での見え方に違いはあるだろうが、昨夜のタクシーに間違いない


違うのは運転手がいないことだ


どこに行ったんだろうか

ここに停めたまま帰った、なんてことはないだろう


Hさんは大通りに出てタクシーを拾う

昨晩来た道の逆を伝えると、目を閉じる


「あっ、あれか・・・」道中、運転手が呟いた


Hさんが目を開けると、橋のふもとに警察車両が数台停まっている


「何かあったんですか?」


「・・・あ、なんだか夜中に男女の飛び込みの通報があって、河岸で見つかった遺体の男が同業らしくて」


「タクシーの運転手さん、ってことですか?」


「はい。で、その人の乗ってた車両と女性がまだ見つからないそうで。我々同業にも捜索協力願いが来てましてね。けどGPSで管理してるはずだろうにねぇ」


絶対あの運転手だ

そしてあのタクシー


Hさんはそれを言おうとしたが止めた

俺が言わなくともそのうち見つかるだろう



「・・・藪蛇になると思ったらしいわ」


この話を聞かせてくれたママが言う


Hさんはその晩、仕事終わりに自宅ではなく、不倫相手の女性の家に泊まっていた


俺「『私が死んだの橋の下』って言ったのHさんなんだよね?なんでそんなこと言ったんだろう?」


「それがよくよく思い返すと、怖い話がないかとは聞いたけど『橋の下で云々』を言ったのは隣の人だそうよ」

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