第169話 問題は貴女か。

Mさん(26・男性)はテレビで深夜の心霊特番を見ていた


時刻は午前1時を回ったあたりだ


スタジオから生中継、怪談師や霊媒師、アイドルらが出演し


あなたの身にどんな霊障が起こっても責任は持てません、などと煽る


怪談噺や心霊映像が次々と披露され、なかなか怖い


Mさんは無意識に自分の背後を振り返る


放送開始から1時間が過ぎ、番組も後半に差し掛かったところで


スタジオの出演者や視聴者をお祓いします、と霊媒師の女性が画面に向かって祈祷を始めた


ところが、ぶつぶつ何やら唱えていたその霊媒師が突然黙り込んだ


そして画面をジーッと凝視したまま動かなくなる


そのまま沈黙が続く

これ、軽い放送事故じゃないのか


その時


『大丈夫ですか?あなたですよ?・・・そう、緑のあなた』


緑のトレーナーを着ているMさんに話しかけるように手を伸ばしてきた


「えっ?!」


驚いたMさんは思わずテレビを消す


いや・・・

そういう演出なのか


まんまと引っかかってしまった笑


再びテレビの電源を入れる


『どうして消すの?すぐ部屋を出なさいMさん。今すぐ!』


霊媒師に名を呼ばれたMさんは


ギョッとしてテーブルの携帯と財布を掴むと慌てて部屋を飛び出した


俺に?

俺に話しかけた??


そんなことある?

服の色も、名前も合ってる・・・


どんなからくりなんだ?

近くで誰かに見られてる?


まさかな・・・

気分転換にコンビニでも行こう・・・


10分後、缶ビールとツマミを買ったMさんは部屋に戻ってきた


このインターバルで落ち着きを取り戻した


緑の服を着たMという名前の視聴者が、1人ぐらいいるかも知れない


そういうのを狙ったミスリードなんだろう


苦笑いしながら鍵を開け、部屋に入る


テレビも電気も点けたままだ

まだ心霊番組は続いている


『・・・今のお話どうでした?◯◯さん』


司会のお笑い芸人が女性アイドルに振る


『怖かったです〜・・・そんなこと本当にあるんですね・・・』


そう言いながら口元を押さえるアイドルの背後に、あの霊媒師が座っている


霊媒師は難しい顔をして前を向いていたが、気配を感じたのかこちら(画面)に向いた


Mさんに気付いたかのように「あっ?!」と目を見開くと


険しい目つきで画面を睨みながらゆっくり首を横に振る


どうして戻ってきたのか、と言わんばかりに。


「えっ、やっぱり俺?!」Mさんは再びテレビを消した


翌日は休みだったが、仕事仲間や友人に昨夜の心霊特番を見てなかったかどうか、LINEで聞いてみた


そして1人、大学時代の友人Oから「見てたよ」と返信がきた


MさんはOさんに直接電話を掛ける


『久しぶり。どうした?』


「お前昨日あの番組、初めから終わりまで見てた?」


『まあウトウトしながらだけどな。どうして?怪現象でも起こった?笑』


Mさんは放送中、出演していた霊媒師に変わったところがなかったかを聞いてみた


『いや?特には』


「視聴者に語りかけてただろ?」


『いやぁ?途中で何か唱えてたけど、それ以外は何も話してなかったんじゃない?』


Mさんは、その霊媒師が自分に話しかけてきたように見えたのだと話した

 

『誰にも話しかけたりなんかしてなかったぞ?』


「生放送中、画面の向う側に異変を感じたとかで・・・」


『はっ、ないない!だってあれ生放送じゃなくて録画放送だぞ?』


「・・・えっ?」


電話を切ったあとMさんは、あの霊媒師のホームページを探し当てた


ことの経緯をメールで送る


そして翌日、返信が届いた


『M様 私は貴方様を存じ上げませんし、あの番組で話しかけたという事実も御座いません。いくら名前を変えようとも貴方様が同一人物であることは察しがつきます。度重なる根拠のない言いがかりに対し、法的措置を取らせていただくことも検討しておりますので、どうかご了承ください。』

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