第165話 破壊

幸子さん(86)は築55年の2階建ての一軒家で一人暮らしをしている


2年前に旦那さんが他界し、息子さんが一緒に住もうと言ってくれたが


歩けるうちはこの家に居たいと申し出を断り、のんびり暮らしていた


ある日の夜


1階にある和室で、20時から始まった歌謡番組を観ていた幸子さんは


2階でミシッ、ミシッと人の歩くような気配を感じ、テレビの音量を下げた


時刻は21時過ぎだ


息を殺して2階に意識を集中していると、次の瞬間


ドォン!!

ドドン!!!

ドォォォーン!!!!

ガッシャーーン!!

ドドォーン!!

カランカランカラン・・・

カランカラン・・・

カララン・・・


突然、凄まじい衝撃で家が揺れ


天井が波打ち何かが散らばり、そして静かになった


相当な衝撃音だったようで、近所の犬たちが吠えまくっている


幸子さんは心臓が止まるかと思うくらい驚き、腰が抜けたように動けない


やがて電話が掛かってきた


なんとか身を起こした幸子さんは這いながら電話台までたどり着く


受話器を取る


『あっお婆ちゃん?!大丈夫??いま凄い音がしたけど旦那が◯◯さんのお宅じゃないかって言うから電話したの!!』


隣家の40代の奥さんだ


幸子さんは今しがた起こったことを震えながら話す


『分かった!今から息子も連れて行くから!鍵開けといてね!』


奥さんは旦那さんと高校生の息子2人を連れてきてくれるという


幸子さんが玄関を開けると隣家の皆さんが飛んで入ってきた


「大丈夫お婆ちゃん??怪我はないですか??」

「2階ですね?お邪魔します!!」


各々バールや懐中電灯を持った旦那さんと息子さん達が家に上がる


幸子さんは階段の電気を点ける


「あの、みなさん、くれぐれも怪我しないでくださいね?!」


「だ〜いじょうぶ、この人たち体だけは頑丈だから!」そう奥さんは笑うが


「気をつけてよ」3人に向ける言葉には緊張感が漂う


ミシッ、ミシッ、ミシッ

3人はゆっくり階段を上がっていく


下から見守る幸子さんと奥さん


2階に上がると右手は寝室だが、旦那さんが亡くなってからは幸子さんは1階で寝ている


左手には通路があり、3部屋につながっている


1番手前の部屋が、先ほど幸子さんがテレビを見ていた和室の真上にあたる


更に奥に進むと息子が使っていた部屋があり、曲がった左手にもう1部屋、物置部屋がある


男3人は2階に上がりきると、まずは右手の寝室の扉を開け、中を照らす


特に異変はないようだ


次に3人が左手の通路に進み、姿が見えなくなった途端


「うわあっ!!」

「な、何これ?!」

「オヤジ、ヤバい!ヤバいって!!」


3人が各々叫んでいる


「どうしたの?!なに??どうなってるの?!」下から奥さんが訊ねる


「これ・・・たぶん・・・」旦那さんの声


「なに?たぶん、なに?!」


「これ・・・空から何か落ちてきたんじゃないかな・・・」


「なに?なに?どういうこと??」


通路の先、息子が使っていた部屋の手前で屋根が崩落し


屋根のあった瓦礫の裂け目から星が見えているという


3人が降りてきて、旦那さんが警察に連絡、状況を説明


数分後、警察と消防が到着した


その日、幸子さんは急遽、隣家に泊めてもらうことになった


早朝、会社を休んだ息子がやってきたが


白んできた空の元、見上げた実家を見て言葉を失っている


「な・・・んだこれは・・・」


消防隊員「まだ詳細は不明ですが、重くて硬い大きなものが、あの部分(・・・と押し潰された屋根を指し)に尻もちを付いた感じです」


息子さん「尻もち?・・・って何ですか?」


「屋根を壊したあと浮いた、とでも申しましょうか・・・あれだけの破壊力で落下すれば、当然地面まで突き抜けているはずなのですが・・・」


突き抜けていたら母は100%潰されていただろう・・・息子さんはゾッとした


何かが落ちてきた

だがそれは落下し切らず屋根を壊して消えた


この事件が起こってから半年が経つが、未だに調査が続いているという


幸子さんは息子さん宅で暮らすことになった


破壊された幸子さんの家は、"ある筋"が高値で買い取りたいと、しきりに交渉してくるらしいが


幸子さんは売却について、まだ迷っているそうだ

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