第164話 自撮り

朝起きると頭が痛い・・・風邪だろうか?


社宅に住むSさん(25)は、とりあえず着替えて出社した


昼休みになり昼食を取りながらスマホを見ていると、何気に開いた画像アルバムに、記憶のない自分の寝顔が5枚ほど保存されている


Sさんはギョッとした

撮影時間が昨晩1時から3時の間、となっているのだ


だがこんなものを撮った記憶は全くない


以前、海外の恐怖動画で、自分の寝姿を自分の携帯で真上から撮られた、というのを見たことはあるが


これは自撮りだ・・・

意味が分からない・・・


それにもう一つ、スタンドの灯りの元に写っている自分の顔が、全て苦しそうに歪んでいる


寝起きの頭痛と関係があるのだろうか・・・


その夜、就寝の時間になり布団に入ったSさんだったが


意味不明な自撮り画像のことが気になり、全く寝付けない


目覚まし代わりにアラームをセットしている関係で、不気味なスマホを離れた場所に置くわけにもいかない


それでも色々と頭に巡らせながら寝返りを打っているうちに、寝落ちしたようだ


翌朝、アラームの音で目が覚めたが、昨日よりも寝起きの頭痛がひどい


ガンガンして頭が割れそうだ


顔をしかめながらSさんは枕元のスマホを開き、画像フォルダを確認して「うわっ?!」思わず声を上げた


意味が分からない

新たな寝顔が10枚ほど追加されている


撮影はまた夜中だ・・・

よく見ると最後のデータは動画だ


Sさんはガンガン響く頭痛に堪えながら身を起こす


覚悟を決め、52秒となっている動画を再生してみた


スマホを真上に掲げた自分が、目を瞑った自分を撮影している


目を閉じた自分は、やはり苦しそうだ


夢でも見ているのか、眼球がまぶたの裏で右往左往しているのがわかる


いや、微かに何か呟いている・・・


そして


動画が30秒を超えた辺りで突然、動画の自分がパチッと目を開けた


Sさんは思わずスマホを落としそうになったが、握る手に力を入れる


動画の自分は、無表情にカメラを見つめたまま何か呟いている


音量を上げる


な・・・いい・・・

きで・・・

き・・・な・・・

い・・・い・・・

き・・・で・・・

き・・・な・・・


そこで動画は終わった


あまりにも頭痛が酷いため、会社を休むと連絡を入れる


AM10時過ぎ、同期で部屋が隣のKさんが、様子を見に会社から戻ってきてくれた


Sさんが前日と今朝のことを話すとKさんは


自撮りも不思議だが、まずは医者に診てもらったほうがいいと言う


Sさんは午後、脳外科を受診した


検査するので1日宿泊の用意をして改めて来て欲しいと言われ、夕方から泊まりがけで診察を受けた


結果、重度の無呼吸症候群(SAS)と診断された


これほど長時間呼吸が止まるのも稀なので、早期治療が望ましいとのことで


SさんはCPAP(持続陽圧呼吸療器具)を借り受けた


だが、それから4日後


連絡もなく、出勤してこないSさんを不審に思ったKさんが伺ったところ応答がなく


改めて会社から合鍵を借りて部屋に入ると


布団でCPAPを口につけたまま動かないSさんを発見


のちにSさんは低酸素脳症による脳死、と診断された


普通、低酸素脳症を引き起こす要因となるのは心肺機能の異常であるが


疾患は見つからず、CPAP器具についても異常はなかったという


Kさんが言う


「Sに見せてもらった動画、改めて見ることができたのですが・・・あれ、言葉並べたらSが自分自身に向けたSOSだったんですよね・・・」

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