第156話 照明
朝6時。
駅に向かう途上にある右手の一軒家
もう20年以上も前からある家だ
開け放された玄関には"すだれ"が掛かっていて、薄暗い通路の奥に誰かが立っている
ここ数日、同じ構図だ
こちらを見ているようにも見えるので、Iさん(52)はチラと一瞥しただけで素通りする
あの家には老夫婦が住んでいる
その後も1週間ほど、立っている誰かを感じながら通り過ぎた
だが、その気配が微動だにしないのでIさんは、あれは人ではなく衝立か何かだろうと思うことにした
それから更に数日後の帰宅途中
あの家の前にパトカーが数台停まり、まばらだが人集りができている
なんだろうと思いながらも通り過ぎ、帰宅すると
妻がIさんを待ち構えていて、堰を切ったように話し始めた
ここ数日漂う、生ゴミのような匂いに異変を感じた近隣住人が
玄関の開け放されたあの家のインターホンを押したが反応なく
男性が1人、門扉を越えて開いたままの玄関から声を掛けて入ると
入った正面奥の棚の上部に延長コードを掛け、首を吊った状態のお婆さんを見つけたそうだ
あの誰か、は首を吊ったお婆さんだったのか・・・
Iさんは身震いした
お爺さんは奥の居間に敷かれた布団の中で亡くなっていたという
新聞は止められていたようだ
妻情報によると、遺書があり、いわゆる老老介護に疲れたとの内容だったらしい
それにしても・・・
亡くなって2週間近く、異変に気付かなかった近隣住人
かくいう自分も、ただ通り過ぎていたわけだが
それには理由がある
朝、その家を右手に見ながら通り過ぎる時は
開けっぱなしの玄関横の、おそらく台所と思しき部屋は暗く
夜、左手にその家を通り過ぎる時は、台所の窓から明かりが漏れていたのだ
だからIさんは必要以上に怪しく感じなかった
20年前にIさんが引越してきた時には既にあった家だ
自動タイマーで点灯するようなシステムとは思えない
後日、奥さんが新たな情報を仕入れてきた
近隣住人は、まさにIさんと同じ理由・・・朝は消えていた明かりが夜には点いていたから、不審に思わなかったそうだ
そしてやはりあの家の照明は、スイッチを押さないと点かないようだ
2人が亡くなってから10日以上
どんな作用で点灯・消灯していたのだろうか
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