第154話 子供の残酷性

我々が小学生の頃、文具屋で「昆虫採集セット」が売られていて


夏休みになるとそれを買い、標本を作った思い出がある


箱の中には注射器・ピンセット・虫眼鏡・殺虫液(赤)・防腐液(緑)が入っていた(と思う)


子供が普通に買えたのだからフランクな時代だ・・・実際には、赤と緑の液体はエタノールを薄めたもの(あるいは色水)だったらしい


だが70年代頃からPTAが騒ぎだし、80年代には完全に姿を消してしまった


ただ、危険なものを子供に売りつけるなという理由で消えたのではなく、覚醒剤の使用防止のためだったらしい


とはいえ、実際あんなものは消えるべきだったと思う


"昆虫採集セットに入ってる殺虫液って、人に打ったら死ぬんだろうか?"


当時の小学生男子なら、ほぼ全員が脳裏に浮かんだはずだからだ


実際、ウチの小学校では大ゴトになってしまったのだ


小4の夏休み、寺田くん(仮名)という子が藤井くん(仮名)という子と山の中で虫取りをしていた


まさにその昆虫採集セットを2人とも持ってきたらしいのだが


寺田くん曰く


藤井くんが、赤の液体の入った注射器を不意に寺田くんに打とうとしてきたらしい


「なにすんねん!」寺田くんは藤井くんを突き飛ばしたが、執拗に刺そうとしてくるので、怖くなって逃げたという


藤井くんは藤井くんで、寺田くんが突然、注射器を振りかざし「おまえ、死ね」と刺してきたと主張した


所詮本物の注射器ではないから、子供の力では深く刺すことが出来なかったらしいのだが


双方の親・学校で話し合いが持たれ、警察が介入する事なく世に拡まることもなく伏せられた


今の時代であれば即日SNSで実名も住所も拡散され、センセーショナルな社会問題になっていただろう


ちなみに我々同級生の間では、やったのは藤井に違いないとなっているのだが


憶測で決めつけ犯人扱いする・・・子供の世界は、今も昔も残酷だ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る