第153話 見える条件
15時過ぎ、Mさんは彼女を乗せて峠を走っていた
道中、短かなトンネルを抜けた20メートルほど先のカーブに、小柄な70代の老人が立っている
老人の手前と奥には、真新しい黄色のA型バリケードが置かれている
事故か?工事か?
いや私服の老人だし、警備員ではなさそうだ
ただバリケードに挟まれて老人が立っている、というだけだ
この老人、こんな山奥のこんな場所にどうやって来たんだろうか
車もバイクも見当たらないが・・・
そんな事を考えながらバリケードを避けて通り過ぎる
老人は無表情にMさんの車を見つめている
「なあ・・・今のなんか変じゃない?」
Mさんは助手席の彼女に声を掛ける
「あ、バリケード?ガードレールめちゃくちゃだったね」
「ガードレール?お爺さん立ってたでしょ」
「えっ?誰も居なかったよ?」
「いたじゃん小柄なお爺さんが」
「いないって。怖いなぁ!」
「いやいやいたって笑」
「・・・戻ってみる?」
「それは面倒臭い」
結局そのまま車を走らせたMさんたちは峠を越えて街に出る
食事を済ませたあと、19時からの海上花火大会を満喫した2人は21時半、帰路につく
再び峠の山道に入る
「あのバリケード何処だったかなぁ?」
「お爺さんがいたって言ってたよね、怖いぃ〜笑」
峠を15分ほど走ったあたり、ライトの先の左カーブに黄色のバリケードを発見したMさんはスピードを落とす
「ほら、ガードレールめちゃくちゃじゃん」
「うっわホントだ」
彼女の言う通り、右手谷側のガードレールがグニャリと曲がって千切れている
それを囲うように黄色のバリケードが置かれているのだが
おおよそカーブを曲がり切れなかった車が突っ込み、谷に落ちたのだろう・・・
だが、それもかなり前のようだ
バリケードもガードレールも酷く錆びついている
「いやここじゃないわ、もっと真新しいバリケードが置い・・・」
そう言いかけたMさんだったが
道中に一つしかないトンネルが目の前に迫ってきたため、やはり行きに見た場所だったと分かった
「あんな錆びてなかったんだけどなぁ・・・ガードレールも綺麗に真っ直ぐだったような・・・」
「行きも同じだったよぉ〜やだ〜怖い〜」
Mさんの脳裏にお爺さんが浮かぶ
あの人、あそこで何してたんだろう・・・過去に事故った本人??
いや、生きてる人にしか見えなかったけど・・・
それから半年ほど経った平日の昼間、Mさんはその峠を越える用事ができた
流石にあのガードレールも修復されただろう
そもそも、あんな錆びて破れたままのガードレールを放っておくほうが非常識だ
陽の高い昼間だし、Mさんは特に怖さを感じることなく峠を走らせる
やがてトンネルに入った
短いトンネルだ、すぐに抜けて、その先の・・・ん?
あのカーブに若い男性が2人立っていて、男性達の前後には、真新しくはないが黄色のバリケードが置かれている
ガードレールは綺麗に修復されている
そこを越えた先に一台、乗用車が停まっている
Mさんはスピードを落とし、その車の前に停めた
前後を確認して車を降り、少し戻ってバリケードに近付いていく
そんな所に立って何があるのか、知りたかったのだ
バリケード内に立っていた男性2人がMさんに気付いて会釈してきた
Mさんも会釈しながら近付く
男性A「いや〜見えませんね全く」
Mさん「えっ?」
A「僕たちには全然ダメ」
M「・・・何か見えるのですか?」
男性B「ガードレール見にきたんでしょ?」
M「ガードレール?」
2人の話では、8ヶ月前
このカーブで車がガードレールを突き破って谷底に落ち、男女2人の死者が出たのだという
事故後すぐにガードレールは修復されたのだが
「あんなグチャグチャのまま、いつまで放置するつもりだ」と市に苦情が相次いだ
実際は綺麗に修復されているにもかかわらず苦情が絶えないため
「ここほら、修理されてますよ!」目立たせる意味でバリケードが置かれているのだという
M「あの〜、見える見えないって何が見えるんですか?」
A「だからグチャグチャなままのガードレールですよ。けどどう見てもほら、綺麗なガードレールにしか見えない笑」
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