第151話 誰にでも起こり得る

他人事ではない。

悩んだが、載せることにした。


日曜日の朝。


Cさん(52)は、大学生協で働く奥さん(48)がオープンキャンパスで出勤のため


出掛ける準備をしている間、リビングで朝のニュースを観ていた


目の端にダイニングを歩く奥さんが見える


「じゃあ行ってきます。鍵はお願いしていい?」


「了解。気をつけて」


ほどなく奥の玄関でバタンとドアの閉まる音がする


10分ほどのち、TVがCMに切り替わったタイミングで


そろそろ玄関の鍵を閉めにいくか・・・とソファーから体を起こすと


ダイニングに奥さんが立っている


「あ、あれ?いつ戻ったの?忘れもの?」


「ん」


相当慌てて帰ってきたらしい


奥さんはダイニングテーブルから何かを取ると、目線を合わせることなくスッと消えた


夕方。


「あ〜疲れたぁ〜」奥さんが帰ってきた


「今朝はあれ、何を忘れたの?」


「えっ?何も忘れてないけど」


「戻ってきて何か持っていったじゃん」


「は?戻ってないよ」


「いやいや戻ってきてテーブルから何か持っていったじゃん笑」


「戻ってないって」


どうやら冗談ではないようだ


Cさんはそれ以上言うのをやめた


夕食前。


「ねえ、ここに置いてたリモコン知らない?」


奥さんがダイニングテーブルを指差しながら尋ねてきた


「えっ、何のリモコン?」


「和室のクーラーの。室内干ししてるあいだ、暑いのよ」


「触ってないよ?ここにあったの?」


「朝はあったのよ」


結局それ以来、和室のクーラー用リモコンは消えた


それを皮切りに


カード会社からの未開封の利用明細、ハンディ扇風機、宅配受け取り用のシャチハタなど


ダイニングテーブルに置いていたものが、度々無くなるようになった


だがお互いが知らない、触ってないと言い合いになる


もしやどちらかが若年性アルツハイマーにでもなったか、という冗談話になったが


Cさんは笑えなかった


もしその可能性があるなら、それは妻の方だからだ


あの日、あれほどはっきり家に戻ってきたにも関わらず、それを覚えていないのだ


あの時取り上げたのも、おそらく和室のリモコンだったのだろう


「・・・だから、こんな話できるのも平田さんだけなんだけど・・・1度検査に連れて行こうと思ってるのです」


見た目は何も変わらない

話も理路整然としている


だがここ数ヶ月で俺は、彼の中で完全に平田さんになってしまった


※奥様と連絡を取ると奥様も以前から心痛めておられたらしく、近々彼を脳外科に連れていくとの事でした。

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