第150話 動じない青年

イタリアのお伽話に『怖いもの知らずのジョバンニ』というものがある


幽霊が彷徨い、泊まった者は皆、あまりの恐怖に朝を迎えることなく死んでしまう、という廃城に


この世に何一つ怖いものはない、というジョバンニ青年が泊まることになった


ジョバンニは幽霊に臆する事なく廃城の呪いを解いたため


幽霊から褒美と城の所有権を与えられ、一夜にして大金持ちになった


ところが


城に住み始めて間もなくジョバンニは、振り向きざま自分の影に驚き、死んでしまった


・・・何とも間抜けな話だ



大学生のKさんは怖いもの知らずで有名だった


何事にも動じないのだ


なので当然、心霊や呪いの類いも全く怖がらない


ある時、仲間たちが講堂で動画を見ていた


「うっわエグいな」

「気持ち悪りぃ〜」


「何見てんの?」Kさんが覗き込む


「これ、見てみ」


それは天敵であるノミバエから体内にタマゴを産み付けられたヒアリの末路、というものだった


ヒアリが突然、前足で自分の首を抱えたかと思うと、グニグニと首を右左に回しはじめ


しまいには自分の首をねじり取って外してしまう、というものだった


「うわっ?!」思わず声をあげるKさん


あの動じないKさんが、明らかに怯えた顔で動揺するのを見た友人たちは


「ほら、もう一回」


動画を繰り返し再生し、Kさんの眼前に近付ける


顔を歪めながらも食い入るように見ていたKさんが、突然


バッ!と踵を返して講堂を出て行った


こんなに動揺するKさんを見た事がない・・・


「いや確かにキモいけど、そこまでか?」

「あいつにも苦手なものってあったんだな」


その場は笑いで済んだのだが、それ以降Kさんを大学で見かけなくなった


電話しても『電源が入っていないため・・・』というアナウンスが流れるだけだ


おかしいと感じた友人が下宿部屋を訪ねたが反応がなく


連絡を受けた大学が、実家に確認を取ってみたが戻っていないという


実家から出てきた両親立会いのもと、消防隊と警察が部屋に入ったところ


1Kの部屋の真ん中に置かれたローテーブルにKさんが突っ伏しており


右手には刃渡り30センチの刺身包丁が握られ


ベッド脇には、切り落とされたKさんの首が転がっていたという


全てが謎だが、自力で自分の首を落とすことは、まずもって不可能に近いという

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