第142話 魚

1カ月ほど前、お客様3名を底物釣りに御案内した時の話


お客様の1人が、何匹目かのアーラミーバイ(ヤイトハタ)を釣り上げた


俺はちょうど他のお客様のタモ入れ(釣れた魚を網ですくう)をしていたので


その60センチほどのミーバイは、横にいた別のお客様にタモ入れを行ってもらった


「うっわ臭っ?!」

「くっせ!!何だこの魚?!」


「どうしました?」2人が騒いでいるので見に行く


「いやこの個体、何食べてるんでしょうね?めちゃくちゃ臭いんですよ笑」


そばに近付くと確かに臭い


「目が黄色いですね・・・何だろう・・・」


普通、目は透明のガラス体に黒い水晶体だが、その個体はガラス体が黄色く濁っている


「ほんと臭いな・・・まあ、締めておきましょう」


ナイフを入れて血抜きしたあと、氷の詰まった200Lのクーラーボックスに突っ込む


夕方、港に戻ってきて魚を移し替えていると、あの例のミーバイだけがグニャグニャなことに気付く


臭いも強烈だ・・・


「このミーバイ、やはり何か変ですわ。こちらで処分しましょうか?」


「うっわ臭っ!!まさか腐ってるとか?!締めたのにグニャグニャだし・・・」


「もう船頭、捨てといて」


お客様を見送ったあと、残ったそのミーバイを調べてみることにした


あまりにも臭いので船から上がって陸でさばく


腹を開いて驚いた


何らかのウイルスにやられたのだろうか、内臓がドロっと溶けかかっている


強烈なヘドロ臭が鼻を突く


これは敵わん・・・


海に捨てるのも嫌なので、駐車場脇の雑木林の土を40センチほど掘り、そこに魚を埋めた


ゾンビウオか、あれ・・・


手とナイフを丹念に洗い、帰路に就いた


それから10日ほど、その魚の事を忘れていたのだが


ふと思い出し、駐車場脇の雑木林を見てみると


なんと魚を埋めた周辺80センチ四方の雑草が枯れていた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る