第141話 お届け物

部屋の電気を消し、ヘッドホンを付けてゲームに没頭していたIさん(23)は


何気に振り向いたキッチン横の壁付けインターホンが光っているのに気付き、ギョッとしてヘッドホンを外した


時計を見ると深夜1時半だ


えっ、どうしてインターホンが光っ『ピンポーン』


Iさんは凍りつく


『ピンポーン』


えっ?えっ?

誰か来てる??


『ピンポーン』

ドン、ドン、ドン


ドアを叩く音


えっ誰?

友達?

・・・あっ、隣の人??


ゲーム音は漏れてないし・・・

バタバタ暴れてもないけど・・・


ようやく立ち上がったIさんはインターホンに向かう


『ピンポーン』


白黒画面に、制服姿の男が映っている


えっ?

何?

誰??


Iさんはインターホンの通話ボタンを押す


「・・・はい」


『あっお届けものですー』


「はぁ?いま何時だと思っ『雨で遅れちゃって〜ほんと申し訳ありません〜』


雨?

どういうこと?

夜中1時半だぞ??


Iさんは出るべきかどうか悩んだが、玄関脇の傘(武器)の位置を確かめながらカチャッと鍵を開けた


「はい」少し扉を開く


なんの反応もない


「はい?」もう少し扉を開けたが、気配がない


何だよいったい!!

Iさんは思い切って扉をグイッと全開にした


共用廊下には誰もいない


エレベーターや階段周りを見渡し、Iさんは急いで扉を閉める


誰もいない・・・

ウソだろ・・・


玄関の鍵を掛けると、部屋の明かりをつける


心臓がバクバクしている


玄関を見つめたまま、しばし立ち尽くす


今日、雨なんか降ってた?

めちゃくちゃ晴天じゃなかった?


俺・・・ゲームのしすぎ??


何が何だか訳が分からないままIさんはゲームをやめ、就寝することにした


配達業者、来てたよな?

絶対幻覚じゃないよな??


1時間ほど、またインターホンが鳴りはしないかとビクビクしていたIさんだったが


そのうち眠りについた


翌朝、自動車整備工場に出社したIさんは先輩達に昨晩の話をした


「うっわ怖いな」

「実は届けられてたりして笑」

「部屋の中、よく調べたほうが良いぞぉ〜」


夢だと茶化さず聞いてくれたのは嬉しかったが、そのかわり散々、怖いことを言われた


19時前、Iさんはアパートに帰ってきた


部屋に入ってすぐ玄関の郵便受けを開いてみる


不在票が1通入っている


手に取って確認すると、今日の日付の1時23分、とボールペンで殴り書きしてある


やっぱり来てたのか?!


だが不在票には送り元や品名が未記載になっている


なにこれ・・・

 

すぐに不在票に載っている担当ドライバーの携帯番号に掛けた


『はい、◯◯急便です』


「あっすみません不在票が入ってたのですが」


『・・・あの、そちらの不在票、何日の何時になっておりますでしょうか?』


「あ!それを言いたかったんですけど今朝の1時23分ですよ?夜中にインターホン鳴らすなんて常識無くないですか?記載内容も変だし」


『あのぅ・・・すみませんお客様、今からお伺いしても宜しいでしょうか?少しご説明させていただけないでしょうか』


「ああ、今なら・・・はい。お待ちしてます」


15分後、50代の配達員がやってきた


不在票を渡すと、缶ジュースの詰め合わせを「お詫びの品です」と渡された


「えっ?宅急便は?モノは?」


「それがその、何をどちら様にお送りすべきだったか、分からなくなっておりまして・・・」


「分からないとは?どういうこと?」


「実は、お客様の他にも10数箇所、深夜に配達でお伺いしておりまして・・・」


「あなたが?どうしてそんなことを?」


「いえあの、私ではないのです。すみません、あの・・・突拍子もない話になるのですが、お聞き頂けますでしょうか?」



夕方、視界の悪い大雨の中をトラックで配達していたFさんは


高速道路から降りてきた車との合流地点に差し掛かったところで多重衝突事故に巻き込まれ


川沿いにあった道の土手から突き落とされ、増水していた河川に車ごと沈んでしまった


車は3時間後に引き上げられたがFさんは車内で溺死


「票にあるドライバーの電話番号は、当時Fに支給されていた携帯のもので、今は別の者が番号だけ受け継いでいるのですが」


本日その番号宛てに、深夜の配達と不在票に関する苦情の電話が相次いだのだという


社員がお詫びがてら、手分けして回収した不在票を調べたところ


1年前の昨日・・・つまり事故当日に、Fが配達できなくなった残りの荷物だったのではないか、という推測に至ったという


「馬鹿げた話だとお叱りを受けても仕方ありません。ただ私には、理由は分からないがFが1年越しにノルマを完遂しようとしたのではないかと思えて・・・」


信じがたい話ではあったがIさんは、男性の誠実さを感じ、内容を受け入れた


それにしても今更だけど、受け取るはずだったものって何だったのかな。



・・・翌日の夜、昨夜の男性から電話が掛かってきた


「昨日はありがとうございました。少し悩んだのですが、真剣に聞いてくださったIさんにはお伝えすべきだと思い、お電話しました。あの、まだ・・・何もないですか?」


「えっ?」


「実は数人のお客様から『再配達された』と連絡がありまして・・・」

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