第133話 ニュース

Mさん(58)は、何処からともなく聞こえてくる話し声で目を覚ました


マンションの上階か隣室、あるいは外からだろうか


枕元に置いた携帯を見るとAM3:35となっている


話し声がうるさい訳ではなかったが、目が覚めたついでにトイレに行こうと布団を出る


隣の旦那はスヤスヤ寝ている


そっと寝室の扉を開けたところでMさんはギョッとした


話し声が聞こえるのは、この家の中だと気付いたからだ


恐る恐るトイレに続く、暗い廊下の先を見る


・・・うそっ?!


心臓がギュッと掴まれる感覚とともに、血の気が引いた


リビングから明かりが漏れているのだ


その明かりは一定でなく、ネオンサインのようにチラチラ移り変わっている


「お父さん?!お父さん!!」旦那を呼ぶが起きる気配がない


意を決したMさんは、そろりそろりとリビングに向かう


テレビを付けっぱなしか、誤作動で付いた可能性もある・・・


ようやく明かりの漏れるリビングの、開け放たれた扉前に来たMさんは、ゆっくりと部屋を覗き込む


やっぱりだ

音量はさほどではないがTVが付いている


即座に室内を見渡すが人の気配はない


TVからは、日本ではないアジア圏のニュース番組らしきものが流れている


アナウンサーと思しき女性の表情から、かなり緊迫した様子が伺える


どうやら臨時ニュースらしい


倒壊したビル群が映り、煙が立ち込め、カメラは上空を飛ぶ戦闘機を追う


何処かの国の戦争なのか

恐ろしく生々しい中継だ・・・


画面に見入っていたMさんが、ふと部屋の電気のスイッチを入れようとしたその時


フッ・・・と突然、画面が消えて部屋が真っ暗闇になった


慌てて電気を付け、部屋の様子を伺ってみたが異常はない


TVを付けると、画面には深夜ドラマが流れている


チャンネルを変えてみるが、先程のようなニュース放送はない


じゃあさっきのあれは?

何処かの国と混線した??


MさんはTVを消した


色々と不可解なままだが、部屋の電気を消すとトイレに向かい、その後寝室に戻った


速報が出ていないかと携帯からネットニュースを見るがそのような掲載は無く


そのうち寝落ちしたようだ、朝、アラームで目を覚ました


改めてネットニュースを見るが、昨夜の大きな紛争のことは全く載っていない


Mさんが起きた30分後、旦那が起きてきた


「お早う、あのね、信じてくれないかもだけど・・・」


早速昨夜の出来事を話す


寝ぼけ顔で聞いていた旦那だったが、途中から険しい顔になり


「うん、うん」Mさんの話を真剣に聞いている


「・・・どういう事だと思う?」


聞き終えた旦那は、う〜んと言いながら頭を掻く


「ごめん」


「えっ?」


「ごめん、お前が怖がると思って言ってなかったことがある」


「えっ?なに?昨日の戦争のこと?」


「いや・・・もう1年以上も前のことなんだけど、同じ事があったんだよ」


旦那の話では1年半ほど前、Mさんと同じように深夜話し声が聞こえてきたので


起きて寝室を出るとリビングから明かりが漏れている


恐る恐るリビングを覗くとTVが付いていて


映し出されているのは南米のジャングルだろうか、その密林の中にぽっかりと開けた場所があって


そこに黒いバベルの塔の様なものが聳(そび)え立っている


緊張の面持ちでカメラに向かってリポートする黒人男性


その後ろを迷彩服の軍人が自動小銃を抱え、隊列を組んで塔に侵入して行く


映画ではない

これはリアルな現地リポートなのだろう


画面に見入っていた旦那がふと我に返り、部屋の電気を付けようとした瞬間


「TVが消えて真っ暗になったんだよ。お前と同じ。慌てて電気付けてTV付けたんだけど、どのチャンネルにもそんなニュースは流れてなかったんだ。でもあれは確かに、何処かの国で起こった事だと思った。なのにそのあと、そんな報道は全くされなかったんだ」


過去にあったことか

未来に起こることか


あるいは別次元で今現在、進行中なのか。

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