第125話 記憶

ウチの事務員のR嬢が小学4年生の時に仲の良かった同級生・真彩(まあや)ちゃん


真彩ちゃんはお父さん・お母さん・弟の4人家族だったが


たまにR嬢が真彩ちゃん家に電話を掛けると、若い女性が「はい、糸数(いとかず。沖縄の苗字)です」と電話に出ることがあった


小学生当時のR嬢のイメージとしては、高校生のお姉さんくらいの声だったそうだが


初めは真彩ちゃんのお母さんだと思っていた


ところが真彩ちゃん家に遊びに行ってお母さんと話をすると、電話の声と全く印象が違うので


「真彩ちゃんってお姉ちゃんいる?」と聞いてみるのだが


「お姉ちゃんなんていないよ?」と笑われた


「いとこのお姉ちゃんが家に来ることある?」と聞いても


「いとこにもお姉ちゃんなんていないよ?どうして?」と怪訝な顔をされる


あのね実は・・・と、たまに電話に出てくれる女性の話をした


「おかぁじゃなくて?」


「ううん、全然ちがう」


そこで真彩ちゃんのお母さんを呼び、電話を掛けた時間に出てくれたか聞いてみた


「わたしその時間いなかったよー?えーっ、Rちゃんなら絶対覚えてるけど・・・若い女の人?誰だろう?気味が悪いねぇ笑」


ところがこれはRちゃんだけではなかった


真彩ちゃん家に電話を掛けると若い女の人が出た、という女子が数人出てきたのだ


だがそれは、若い声を出そうと張り切る真彩ちゃんのお母さん(当時36)だよ、という笑い話に昇華していった


その後、その若い女性が電話に出ることも無くなってしまい、そのうち皆、話を忘れてしまった


・・・先日、R嬢の小学校の同窓会があり、卒業以来13年振りに真彩ちゃんと再会したそうだ


そこで記憶が甦り、当時真彩ちゃん家の電話に若い女性が出るって噂があったねーという話になった


R嬢の他にも、当時それを経験したクラスメイトが集まってくる


真彩ちゃんを囲んで談笑していると、突然


「あっ?!」1人が声を上げる


「分かった!」


同時に隣の子、向かいの子も顔色を変えて声を上げる


「私も分かった!」


R嬢もゾクッとしながら分かってしまった


皆、15年も前のことであるのに、鮮明にあの若い女性の声が脳裏に甦り、鳥肌が立ったのだ


そして皆、口を揃えて真彩ちゃんに言ったそうだ


「あの時の若い女の人って・・・今の貴女だよ!」

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