第120話 ああ、知りたい
怖い話・不思議な話が大好きで
自分で収集して披露するのも好きなのだが
プロの怪談師さんの話を聞くともう、全然迫力が違う
それこそ1人、夜の海に船を出し
真っ暗な海原の真ん中に船を止め、操舵室で怪談話を聞くなんてこともやる
糸柳さん、夜馬裕さん、村上ロックさんがお気に入りの怪談師だ
ただ、怖い話が好きと言っても(以前もどこかで載せた気がするが)
「仲間で心霊スポットに行こうという話になり・・・」とか
「彼女は霊感のある人で・・・」とか
そういった始まりの話はあまり好きではない
あと、大袈裟に話す語り手もダメだ
嘘っぽく聞こえてしまい、話が入ってこないのだ
淡々と聞かされる実話怪談が1番怖い
・・・とある金曜日
行きつけのバーのカウンターで飲んでいると
22時を回った頃、フラッと30代の女性客が入ってきた
マスターが気を利かせたのか1席空けて俺の隣に女性を促す
初めはマスターと他愛もない雑談をしていた女性だったが
そのうち俺も話に加わるようになる
Mさんというその女性、聞けばこちら(沖縄)に友達と観光旅行に来られているのだが、そのお友達は疲れてしまい、早々にホテルで寝てしまったそうだ
なので1人、夜風に当たりながらフラッと通りを歩いていて、このバーに入ってきたのだという
マスター「ですがよくお1人でこんなディープな通りを歩かれてましたね。怖くなかったですか?」
Mさん「あっ私そういうの平気なんです。怖いとか、危ないとか言われる場所は逆に行ってみたいと思うタチで」
俺「へぇ〜それは、都会の闇みたいなものに惹かれる?」
Mさん「あ、ていうか私、怖い話が好きで、心霊スポットとかよく行くんです。沖縄も多いですよね心霊スポット」
マスターと俺は顔を見合わせる
マスター「そうでしたか。じゃあここに来られたのは正解でしたね。この方も(と俺を指し)怖い系、大好きなんですよ」
そんな訳で意気投合した我々は、互いに見聞きした怖い話や体験談などで大いに盛り上がった
気がつけば午前1時前・・・
俺「いや〜話は尽きないけど、そろそろお帰りにならないと明日の観光に差し障りません?」
するとMさんは少し顔を曇らせる
「あの・・・先ほども言いましたけど私、人より霊感が強いんです。で、いまホテルで寝てる友人なんですけど・・・ちょっと変なんですよね」
マスター「どういうことですか?」
Mさん「多分、お昼を食べに寄った58号線沿いの道の駅から変なんです・・・」
Mさんと友人女性は、とある道の駅にある定食屋で昼食をとった後
車に戻ろうとして突然大雨が降ってきたので、道の駅の裏手にある大きなステージの屋根の下に座り
幻想的な雨の森を眺めていたそうだ
ほどなくMさんは「トイレ行ってくる」と友人と別れ、少し土産物も覗きながらステージに戻ってくると友人がいない
「大雨が降ってるのに、ステージを抜けてそのまま森に向かって歩いてるんです、彼女」
慌ててMさんは雨の中、森に向かって走り
「何してんのよ!」とずぶ濡れの友人を引っ張って連れ戻したそうだ
「それから私が何を話しても薄笑いを浮かべて返事しないし、なんだかぐったりしてきたから、車に押し込んでホテルに戻ったんです」
ベッドに寝かせると友人はすぐ眠りについたそうだが
Mさんが1人、テレビを見たりスマホを眺めたりしながらふと、ベッドの友人に目をやると
「ジーッと私を見てるんです、薄笑いで。ギョッとして『何?』って聞くと、また目を閉じて眠るんです」
明らかにおかしいと感じたMさんは、次第にベッドに寝ている友人が、友人ではない別人のような気がしてきたのだという
「寝てると思ったら薄笑いで私を見てる、ってことが5回ほどあって。気味が悪くて部屋を出たんです。あれ、何かが乗り移ってるのだったら、私が部屋に帰って寝付いた時、何かされそうな気がして・・・」
そんな話をする間もMさんからは「怖い」というよりは「怖いもの見たさ」が勝っているようにも感じる
俺「それはなに、あなたを好奇の目で見てる感じなの?男性目線というか」
Mさん「そうそう!そういう目!」
マスター「逆にそれは、部屋に戻ったらどうなるんだろう?って興味あるよね」
Mさん「わっ、他人事だと思って!」
そこで笑いにかわり、ほどなくして彼女はホテルに戻ることになった
我々はLINEを交換し、何かあれば教えてと言って別れる
マスター「どう思います?」
俺「女友達って言ってるけど実際は男なんじゃない?」
「男と一緒なのに、女の子が1人で飲みに出ます?」
「いやだから、喧嘩したとか。それこそ彼氏?がホテル戻るなりガツガツしてくるから、嫌になって出てきた、とか」
「ああ〜経験者は語りますね」
「なんでやねん」
翌日(当日)の夜、マスターから電話が掛かってきた
「Tさん、今日来れます?ちょっと変な話になりまして」
21時、店に寄る
カウンターに座るとマスターが話し始める
「昼間に昨日のMさんからLINEが来たんですが・・・Tさんは来ました?」
「俺?来てないよ」
「いやそれが的を得ないのですよ。『すみませんそちらはどちら様ですか?』って聞かれて。『昨夜御来店いただいた◯◯のバーのマスターですが』って返したら『あっ名刺の?何時に行きました?』って返ってきて。何度かやりとりして判ったのですが、どうやら相手は男性らしくて」
「えっ?」
「LINEはそれで終わったのですが、そのあと警察から電話が掛かってきて、少しお話聞きたいからお伺いしてよろしいですかって」
「うわ、なになに?」
開店前の店にやってきた警察関係者が言うには
昨日の昼、◯◯の道の駅で突然意識不明になり病院に担ぎ込まれた男性が
今朝、意識を取り戻して身の回りを確認すると、財布に見覚えの無いバーの名刺と
自分が病院のベッドで意識不明の間に交わされた、知らないLINEのやり取りがあるとのことで
自分は何か、睡眠強盗みたいなことに巻き込まれたのではないかと通報があったそうだ
実際に無くなったものはないらしいが・・・
マスターが昨晩の女性の話をしたところ
再度、男性に確認しますとのことで警察関係者は帰って行ったという
「えっ?Mちゃんって実在するよな?あんなに喋ってたし」
「そうなんですよ。ホテルの話もしたんですけど。その男性は全く違うホテルで宿泊してるし、1人客だそうです」
改めて警察からの連絡はないそうだが
男性に何があったのか、Mさんは誰だったのか
それ以来ずっと、LINEで聞きたい衝動に駆られている
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