第118話 山崎さん
彼女は子供の頃・・・小学校1年生か2年生くらいの頃らしいが
ある日いつものように学校に向かう道中、生活道路沿いにある、とある戸建ての家から
かすかに目覚まし時計が鳴っているのに気付いた
朝、8時過ぎのことだ
まだ子供だったから、目覚まし時計が鳴り続けていることをさほど不審にも思わなかったが
午後、家に帰ってきて、朝方のあの家の家族が無理心中を図ったらしいことを知った
無理心中という言葉の意味を理解したのはもっと後になってからだが
目覚まし時計が鳴っていた家で人が死んだ、ということだけは記憶に残った
それから10年が経った
大学生になり、初めての一人暮らしを始めた
ある日、午前10時に玄関を出た彼女は、アパートの隣室からジリリリリリリと目覚ましが鳴っているのに気付く
隣室にはOLの若い女性が住んでいて、たまに彼氏も来て話し声が聞こえてきたが
平日のこの時間に鳴るって、仕事はお休みなのかな・・・止まる気配のない目覚ましに違和感を覚えて隣室の扉前で立っていると
あっ・・・
子供の頃の記憶が蘇ってきた
あの日も確か、目覚まし時計の鳴り続けていた家で・・・
いやいやあと1分、いや2分待ってみよう
それでも鳴り続けているなら・・・
結局鳴り続けたままの目覚ましに、意を決した彼女は隣室の扉を叩く
「あの、すみません?あの!」
返事はない
鍵も閉まっている
目覚まし設定を忘れて出掛けたかも知れないし、こんなことで警察に連絡するのも・・・
少し迷った彼女だったが結局、そのまま大学に向かうことにした
午後3時
アパートに帰ってくると、遠目からパトカーと警察官が見える
近づくと、見上げた自分の号室の辺りにも警察官が数名立っている
更に近づく
警官「失礼ですが、こちらにお住まいの方ですか?」
◯◯号室の者ですと答える
「学生さんですか?お隣りの女性の事で少しお話を伺ってもよろしいですか?」
隣室の女性は亡くなっていた
女性と連絡が取れない事を不審に思った彼氏がやってきて、鍵を開けて発見したのだという
彼女は朝方の説明をした
「ドアノブ回したのですが鍵は掛かってたと思います」
1時間ほど聴き取りを受けた彼女は友人に連絡し、泊めてもらうことにした
数日後
ただでさえショックを受けていた彼女だったが
再び警察から話を聞きたいと連絡を受け、出向いてきた警察官に死亡推定時刻を聞かされ、混乱した
隣室の女性は、発見当日の6日前には既に亡くなっていたそうだ
死因は不審死・・・睡眠薬を飲まされた後の絞殺だと聞かされた
死因まで教えてくれるんだ・・・サスペンスドラマじゃん・・・なんだか非現実のように感じてきた
「発見の6日前から、隣室の音だったり会話だったり出入りだったり、見聞きしませんでしたか?」
彼氏の方が詳しいんじゃないのと思いながらも、特に変わったことはなかったと思うと返答する
「ちなみにあなたがお聞きになったという目覚まし時計、これが同等品なんですが」
警察官がアナログの目覚まし時計を出してきた
「すみません、ちょっと鳴らしてみます。この音に間違いありませんか?」
スイッチを入れた時計から、ジリリリリとけたたましくベル音が鳴る
「はい、これです」
「そうですか。このモデル、止め忘れ防止で鳴り始めから30分後に自動停止するようになってまして、セットされていたのは9時50分なのですが・・・あなたがあの日お聞きになる、更に1週間前まで遡って、特に目覚ましの音はお聞きになってないのですよね?」
「・・・聞こえてなかったと思います」
「朝はだいたい、10時前後にお出かけになる?」
「火・水・金はそうですね」
「そうですか、ありがとうございました」
女性が亡くなったのは発見される6日前だが、それから発見当日までの人の出入りは不明だとしても
女性の死後、誰かが目覚ましをセットした?
隣人が亡くなったというショックから、だんだんとコナンくんのような好奇心が湧いてくるのを彼女は覚えた
その後も追調査で2度、警察官がやってきたが
彼氏が犯人という訳でもなく、進展はなさそうだった
事件の真相を知ることもなく、2週間後に彼女は引っ越した
それからまた10年が経った
今だに目覚ましの音には敏感だという
「私ってそういう事に遭遇する運命なのかな」
「大人のような子供との遭遇」に関連性は感じないが
非・現実的なことを引き寄せる人というのは、いるのかも知れない
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