第114話 ターゲット2

最終電車で最寄駅に着いたTさんは、駐輪場に停めていた原付にまたがった


時刻は午前0時50分


そこから8分ほど走らせてアパートに帰る


誰もいない生活道路にTさんの原付の音だけが響く


数分走らせた道路の左手に老人ホームがあり、その斜向かい(右手)には電話ボックスがある


いつものようにその間を抜けようとしたTさんは、電話ボックスの中でへたり込んでいる人を発見した


えっ?

酔っぱらいか?


Tさんは老人ホーム横に原付を止め、エンジンを切る


ヘルメットを脱いで前カゴに入れると恐る恐る電話ボックスに近付いてみる


どうやら40〜50代の、作業服を着たような男性だ


あんなところで何を・・・

ボックスにあと7歩まで近付いたところで


ピロリロリロリロリン

ピロリロリロリロリン


微かに着信音が鳴るのに気付いた


えっ・・・

あの公衆電話が鳴ってる??


すると、死んだようにへたり込んでいた男性が、ぬうぅぅぅ〜んと起きあがり始めた


驚いたTさんは咄嗟に電柱の影に隠れる


ボックス内で完全に立ち上がった男性が、鳴っている受話器を取る


顔は俯いたままなので表情は分からない


受話器を耳に当てた男性だったが、俯いたまま口元は動かない


いや、ここからは聞こえないだけで低く相槌を打っているのかも知れない


受話器を耳に当てていた間は1分もなかっただろう、男性は受話器を戻す


と、男性はまるで糸の切れた操り人形が崩れるかのように、また電話ボックスにへたり込んでしまった


その一連のことに驚いたTさんは、電柱の影から身動きがとれなくなってしまった


だが逆に直感で、このままここにいてはいけない気もする


直ぐに立ち去ろう・・・


音を立てずに原付まで戻ろうとしたとき、また微かに着信音が聞こえてきた


そしてまた男性が、不自然な動きで立ち上がり始める


ダメだ早く去ろう!!


Tさんは慌てて原付まで戻りエンジンを掛ける


セルの回るキュルキュルキュルという音が響く


すると電話ボックスの男性が恐ろしい早さでドアを開け、こちらに走ってきた


「うわっ?!」


Tさんは慌ててアクセルをふかし、ノーヘルのままその場から走り去ろうとするが


バックミラー越しに、この原付を追ってくる男性が確認できる


何なんだあいつはっ?!


Tさんは四つ辻を停止もせず4ブロックほどフルスロットルで走り抜け、大通りを越えて自宅に帰って行った


翌日の朝6時半


家を出たTさんは、昨夜の通りを駅に向けて原付を走らせる


朝は逆の左側に見える電話ボックスを、近所の住人だろうか数人が囲んでいる


スピードを緩めながら近付いていくと


昨夜は気付かなかったが電話ボックスの床、その周辺にべっとりと血の海ができていて


ボックスの四方のガラスには、血の付いた手を引き摺った跡が付いていた


Tさんはゾッとしてその場を走り去る


だが、それについては何のニュースにもならなかったようだ


あの大量の血が、あの作業服の男のものかどうか分からないが


もし生きているなら


俺は顔を見られたし、バイクのナンバーも見られた可能性がある・・・


それから10日間、念のためアパートを避けて会社近くのホテルから通勤したTさんだったが


11日振りにアパートに戻り部屋に入ろうとして、アパート横の駐輪場に廻ると原付を確認しに行く


特に変わった形跡はない・・・


ホッとしたTさんは、荷台に掛けていたヘルメットを何気に持つ


黒いヘルメットの天辺に、今まで無かった金色の星型シールが貼られていた

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