第111話 霊感

前話のKさん(23)が高校生の頃、蕎麦屋でアルバイトしていた時の話だそうだ


ある平日の昼時に忙しく配膳していると


「お水ください」


フロアに立っている小さな男の子に声を掛けられた


「あっごめんね、あのおばちゃんに(と厨房横にいた年配パート店員に向き)言ってくれるかな」


そう言ってそのまま配膳を続ける


一段落してから先ほどの年配店員に近づき「男の子、水貰いにきました?」と尋ねた


「男の子?知らないよ?」


あれ?と思いながらKさんが店内を見渡すと子供客が1人も居なかったため


"あれ、帰っちゃったかな・・・"と思いながら仕事を続けていた


昼時のピークを過ぎて時間の余裕ができたため、昼間は開放していない、宴会などに使う奥座敷に向かう


そこに補充用の箸などの箱が置いてあるのだ


昼の遅がけにやってきたおばさん3人客の座るテーブルを横切ろうとして


「痛っ?!」


思わずKさんは声をあげてテーブル席に振り向いた


バシッバシッ!!

右太ももを思い切り2度、引っ叩かれたからだ


高校生なのでストッキングを履いておらず、素肌の上に貸与された作務衣を羽織っていただけだから


叩かれた痛みがストレートにきたのだ


ところがおばさんたちはそれぞれに箸や器を持っており、Kさんを叩いたようには見えない


おばさんたちも突然声を上げたKさんを不思議そうに見ている


「あっ、すみません・・・」


Kさんはてっきりおばさんの1人に叩かれたと思っていたから、恥ずかしそうに走って奥座敷へと消える


「痛ったぁ・・・なに?!」


座敷の隅で作務衣を捲り上げ、まだ痛みの残る右太ももを、首を曲げて確認した瞬間


「ええーっ?!」


Kさんはゾッとしてまた声を上げた


太ももに2箇所、重なるように、赤く腫れた子どもの手形が付いていたのだ



霊感が強い人とは、こういう方のことを言うのだろうか。

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