第105話 シェケナタクシー・最期の客

19時半過ぎ、新幹線の新神戸駅に降り立ったNさん


「さてと、北野で肉でも喰いますか~」


ワンメーターだがタクシーに乗ることにする


近距離乗り場に停車中のタクシーに近づき、トランクを開けてもらう


「おお~!」

Nさんは思わずトランクを覗きこむ


トランク1面に乱雑に並んでいる、成人雑誌&風俗情報誌


運転席から出てきた運転手は、グレーの長髪・長身の、内田裕也のようなおっさん


年の頃は60手前か


Nさんのスーツケースを顔色変えず雑誌の山に乗せる


Nさんは車内に乗り込み「JR三ノ宮駅まで」と伝える


無言で頷く運転手


発進してほどなく運転手の携帯が鳴る


運転中だが、ためらいなく電話に出る



おう何や・・・


いま?


新神戸や・・・


ああ?


出てくる?


実車中じゃアホ・・・


5分?


5分で何すんねん・・・


行ったる・・・


後で行ったると言うとんのや・・・


切るぞ・・・


実車中や言うとるやろ・・・


来んでええ・・・


何度言わせんのや・・・


切るぞ・・・



低く籠(こも)る声でのやり取りだったが、相手は女性だろうか


三宮駅に着き、トランクから荷物を下ろした運転手が、Nさんに向かい慇懃(いんぎん)に


「どうも、ありがとう・・・」


一礼してきたので


「こちらこそ・・・」


Nさんも深々と返礼する


"イケオジってやつだな"



・・・翌朝、宿泊先のホテル


部屋の下から差し入れられた朝刊に目を通していたNさんは「えっ?」と声を漏らす


昨夜のシブい運転手の顔写真が載っていたからだ


【タクシー運転手、同僚運転手に首を切られ死亡】


"昨夜8時ごろ◯◯タクシー勤務の◯◯さんが、非番の同僚運転手に呼びだされ・・・"

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