第103話 雨の公園
午後3時
突然降ってきた雨に、Lさん(42)は堪らず公園にスクーターを乗り入れた
家に着くまでは大丈夫だと思っていたのに・・・
公園内に屋根付きのベンチを見つけたので、エンジンを切り、そこまで押していく
先客がいるようだ
学校帰りだろうか、10歳くらいの男の子だ
不審者に思われたくなかったので「ごめんね、おじさんも雨宿りさせてね」と声を掛ける
少年は座ったままコクッと首を縦に振る
ヘルメットを脱ぎ、バイクのカゴに入れた途端、更に雨足が強くなった
ザーザー振りだ
「うわ〜凄いな」Lさんが呟く
少年は無表情で雨を眺めている
傘、持ってないのか・・・?
「こんな雨だと、なかなかおうち帰れないねぇ」
少年は雨を眺めたままだ・・・ん?
よく見るとこの少年、手足に沢山の擦り傷があって血が滲んでいる
転んで間もないのか?
「大丈夫それ?痛くないの?」
Lさんは、血の滲んだ少年の体のあちこちを指差す
「うん」
"・・・ん?"
Lさんは少々、違和感を覚える
小学生だろうから声変わりはまだとしても
この子の顔立ちや雰囲気・・・もしや女の子?
いやいや、そういう目で見ていると異常者だと思われかねない
Lさんは目を逸らし、ベンチの端に座る
「おじちゃん、おうち遠いの?」
少年?少女?に初めて声を掛けられ振り向くと、じーっと見つめる子供の目が、とても悲しそうだ
「そんなに遠くないよ。もう少し降らないでいてくれたら、帰れたんだけど笑 あなたは・・・おうち、遠いの?」
「わたしの家は・・・」
あ、やはりそうだ。
おうちの人がカットしたのか、上手とはいえない短髪で勘違いしたが・・・この子は女の子だ
「まだまだ歩かなきゃいけないのかな?早く止むと良いのにね」
"彼女"はまた顔を逸らし、雨を見ながら呟く
「家じゃない。帰りたくない。」
「・・・帰りたくないの?」
そういえばこの子、カバンも何も持っていない
何年生だか知らないが、ちょっと痩せ過ぎじゃないか?
Lさんはここにきて色々と引っ掛かるものを感じた
「学校はこの近くなの?」
「・・・。」
「おじちゃんは、Lひろゆき。あなたのお名前は?」
「・・・しのだひろこ」
「そっか。ひろこちゃん、おうちは1人で帰れる?」
「・・・。」
雨が小降りになってきた
「おじちゃん、送らなくても大丈夫?」
「・・・。」
「ひろこちゃん、まだここにいる?おじちゃん、ちょっと行くところがあるけど直ぐ戻ってくるから、待っててくれるなら傘持ってくるから」
「・・・。」
「じゃ、ちょっと行くね」
「・・・ばいばい」
Lさんはスマホを確認し、バイクのエンジンを掛けると、公園内をそのまま走りだした
数分後、検索した最寄りの交番に寄る
そこにいた40代の警察官に事情を説明し、公園まで来てもらう事にした
数分後。
警察官と共にさっきの公園に着いたが、彼女はもうベンチにいなかった
だがその警察官はLさんの話を真剣に聞いてくれた
「もし、何かあれば、ご連絡させていただきます」
再度交番に寄り、Lさんは自分の名前と住所・電話番号を書き込み、家に帰った
・・・それから1か月後、警察から電話が掛かってきた
公園のことなど忘れていたから、Lさんは何か悪い事しただろうか?と身構えた
公園の少女の事で、お時間ある時に一度、署までお越しください、との事だった
午後に半休を取り、会社から署に向かう
応接に通され、担当課の女性署員から、「詳細はお伝えできないのですが・・・」と、ある事実を聞かされた
あの日の公園の彼女、しのだひろこさんは、自宅で保護されたそうだ
学校も病気を理由に半年以上、休んでいたそうだが
病気ではなく、虐待による衰弱で歩くことすら出来なかったのだという
「えっ?でもあの日、公園で」
「それだけが不思議です。お医者様の見解だと、とても歩ける筋力ではないと・・・」
あの日の、悲しそうな彼女の目を思い出した
そうか・・・
外に出たかったのか・・・
逃げたかったのか・・・
Lさんは涙が止まらなくなった
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